パナソニック津賀社長「ハード志向からの脱却を」
【ラスベガス=藤野逸郎】米国で開催中の技術・家電見本市「CES」に参加したパナソニックの津賀一宏社長は日本経済新聞などの取材に対し「ハード志向からの脱却」を強調した。高精細な8Kテレビや次世代無線通信規格「5G」の関連製品の開発とは距離を置く。顧客の手に渡った後も機能を高められるソフトウエア型の企業への転換をめざす。滞ってきた事業の整理を進めることも明言した。
今回のCESではパナソニックが参入していない8Kテレビに注目が集まった。津賀社長は「今は様子見だと思う。我々が直接やるとは聞いていない」と否定的な見解を示した。現在は8Kの放送コンテンツが限られる「ニッチな市場」で「表示装置と信号を出す回路があれば誰でも作れる」との見解を示した。
4Gに比べ通信速度が100倍速い「5G」も今回のCESのテーマだった。韓国サムスン電子や半導体大手の米クアルコムが2019年から関連製品を投入することを表明している。
5Gについて津賀社長は「自動運転などで今後は車が通信を必要とするようになる」と述べ、近い距離を時速20キロメートル以下で走る自動運転の電気自動車(EV)を使った移動サービスの参入に意欲を示した。
テレビや白物家電に人工知能(AI)を組み合わせた商品も目立った。津賀社長はAIについて「どう使うかが重要。AIは当たり前に使わなければいけないツールでしかない」と述べた。
津賀社長がこだわったのは「アップデータブル(更新可能)」という言葉だ。商品の売りきりではなく、顧客の手に渡ってからもソフトの更新などで使い勝手を高められる製品やサービスの開発を念頭に置く。
「これまでは研究開発に何十年も時間をかけ、ヒット商品を出すことに頼ったビジネスモデルだった」という。現在の技術革新はインターネットを通じてサービスをアップデートする米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなどソフト企業が主導しており「我々もアップデータブルな企業にならなければ(技術革新の)波に乗れない」と危機感を示した。
パナソニックは2020年3月期から3カ年の中期経営計画を策定中で、事業の選別をテーマのひとつにする。「30年に成長できている、現在より利益が出ているかを判断材料にする」という。事業選別でもソフト重視の方針を鮮明にする見通しだ。
CESでは、音声AIの勢力を広げるグーグルやアマゾンの存在感が際立った。しかしハード重視の志向が染みついたパナソニックが意識を変えるのは簡単ではない。新たな企業像を明確にできるかが津賀社長の課題になりそうだ。
世界最大のテクノロジー見本市「CES」。2024年は1月9日にアメリカ西部ラスベガスで始まり、ソニーやサムスンなどIT関連企業が出展しました。最新ニュースをまとめました。