米国債の格下げはあるのか
トランプ米大統領「私の、メキシコとの国境の壁建設予算に合意するか?」
民主党のペロシ下院議長「NO」
これ以上話すことはない、とトランプ大統領は席を立った。
今日の会談はそれだけだ、と民主党上院トップのシューマー院内総務は憤然と記者団に語った。
すかさずトランプ氏はツイート。
「ナンシー(ペロシ氏)とチャック(シューマー氏)とのミーティングを終えたところだ。時間の無駄。ナンシーはNO、私はバイバイ。それだけだ」
今回の政府機関の一部閉鎖は、9日で19日目に入った。過去最長だったクリントン政権当時の21日間に迫る。しかも、全くまともな話にならない。これまでは「またか」とタカをくくっていた市場も、そろそろいら立ち始めた。格付け会社フィッチ・レーティングスは9日、このままでは米国債のトリプルA格付けにも関わると警告を発した。ただし、「もし予算案が議会を通過できず、債務上限の引き上げが難航すれば」との条件つきだ。
市場の懸念も、政府閉鎖の延長線上にある債務上限の引き上げ問題だ。財政政策が機能不全に陥れば、米国経済の減速が顕在化した場合にカンフル剤の投入がおぼつかない。株式市場が危惧するシナリオだ。既に19年会計年度の財政赤字は1兆ドルを超える可能性が高い。リーマン・ショック以来の事態で、しかも、好況期に税収が増えても財政収支がこれほど悪化することは異例だ。外国債券為替市場では、基軸通貨ドルの信認が問われる事態になる。ここぞとばかりに米国債の最大保有国である中国が米国債売却を加速させるかもしれない。
財政政策が機能不全になれば、結局、金融政策への依存度が高まる。その司令塔である米連邦公開市場委員会(FOMC)の12月の議事録が発表されたが、利上げに対する慎重な姿勢が改めて確認された。同時に、米連邦準備理事会(FRB)も今後の米国経済見通しは読めず、「データ次第」という「出たとこ勝負」的なスタンスで対応せざるを得ない実情がひしひしと伝わる内容であった。米中貿易戦争や、景気後退の予兆とされる長短金利逆転の「逆イールド」などの視界不良の中では、もはや金融政策の方向性を明示する「フォワードガイダンス(将来の指針)」などはできる状況にない、との意見も記されている。
FRBの資産圧縮も議論されているが、あくまで金利が金融政策の主要ツールで、資産圧縮は「二次的」と位置づけられる。しかし、過剰流動性への依存が顕著な市場は、FRBのばらまいたマネーの回収には、ことのほか神経質だ。
しかも、今年から全てのFOMC終了後に記者会見を行うことになり、市場では「出たとこ勝負」を昨年と比べて倍の回数、見守らねばならない。積極財政や金融引き締めのポリシーミックス(政策の組み合わせ)が金融政策だけの片翼飛行となり、その唯一のエンジンにも不具合が生じている。
しかも、ねじれ議会では迅速な政策対応を望むべくもない。
経済政策面で19年の「びっくりシナリオ」は、金融政策の「利下げ」と財政政策の機能不全による米国債の「格下げ」であろう。
小康状態にある市場のボラティリティー(値動きの荒さ)異変も、トランプ氏のツイートひとつで、即時に再燃しかねない。
いまだ健在で、新著を書き上げるほどのグリーンスパン元FRB議長も、ご意見番として再三メディアで警告を発している。昨年のクリスマス前後の市場異変の前には「逃げろ」と語り、今週は「金融政策より財政政策のリスクを注視すべし」と述べている。
イエレン前FRB議長は「民間企業の債務膨張がリスク」と指摘する。
パウエルFRB議長は市場のきつい洗礼を受け、前言を覆して「利上げ急がず」の方針をやっと固めたところだ。
今、クリスマスから年明けにかけて株価が上昇する「クリスマス・ラリー」をやっと遅れて迎えた感のある米国株式市場にも、ざわめき感が漂う。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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