北島康介さん、水泳教室は米国流プラス日本らしさ
経営者として五輪に挑む(5)
水泳を習う人は多いけれど、泳げるようになるとやめてしまう人も多い。ケガのリスクが極めて低く、生涯を通じてできるスポーツなのにもったいない。僕の活躍を見て、祖母は70歳を過ぎて水泳を始め、楽しんでいます。
スクール作りで参考にしたのは、南カリフォルニア大の多国籍チームに参加していた米国時代。日本の練習は時間もきっちりしていて厳しい。性質の違いだろうけれど、米国はルーズだし、練習の苦労自慢もなく、「こうなりたい」という目標に一直線に進みます。トップ選手でも「輪っかを水中にとりに行く」「水中をジャンプして進む」「ボールを使って泳ぐ」など子供がやるようなメニューを真剣にする。僕自身、そんな遊び心満載な練習でも、必死になれる自分に気づいた。
米国流の楽しさ、プラス日本らしく目標をクリアする喜びも味わえたら――。こう思って始めたら、大人は予想していたけれど、子供クラスも盛況だった。全国大会は目指さないけれど、塾通いで忙しくても泳ぎたい子がいる。元選手である僕らは練習はやらされる感覚だったので、こちらが励まされる。ニーズに応えてクラスを作っていけるようにしたい。
スクールでは民間プールも借りていますが限界がある。ガラガラの公営プールも見かけるでしょうが、実は団体にコース貸ししてくれるところは少ない。まさに争奪戦。水泳サークル、元水泳選手が個人でやる教室も多いんです。
売りに出ているプールもけっこうあります。僕らの規模で所有するのはリスクが高い。ハコを持つと、その枠にはめようとしてしまい、自分で考えて成長しようとする気持ちがなくなるかもしれないという懸念もあります。
学校の現場にはもっと入っていきたいですね。2年前に初めて、東京都立高校の水泳部の指導を請け負いました。全国大会を目指し目的が明確で熱心な指導者もいますが、大半の部活は違うし、勉学優先の部員もいる。それでもせっかく部活をやるなら、ゴールを設定し、週3日でもいいから有意義に練習した方がいい。それを、授業を抱え水泳の専門家でもない教員が考えるのは負担が大きすぎる。
どうすれば、水泳を身近にできるか。今、東京都水泳協会の会議に出ますが、高体連、中体連、学童、マスターなど、それぞれ考えが違ってなかなかまとまらない。普及の一環で元選手を呼んだ一日水泳教室は全国各地であるし、僕がやれば人は集まる。それはそれでいいですが、一時のことでしかない。持続可能なモデルを模索中です。