若手力士に物足りなさ もっと稽古してはい上がれ
大相撲初場所が13日、両国国技館で初日を迎える。2018年の土俵は30代の3横綱の休場が相次ぎ、初優勝を果たした力士が3人に上った。「世代交代」の声も出ているようだが、19年期待の若手について語りたい。
■御嶽海と貴景勝、優勝で自信
大関に近い力士は誰かと聞かれれば、やはり昨年初優勝した小結の御嶽海(26)と関脇の貴景勝(22)の2人の名をあげたい。相当な実力がなければ賜杯を抱くことはできない。2人が優勝したのはいずれも3横綱が休場していた場所だが、大関以下、上位総当たりとなる三役の地位でつかんだのだから、自信になっているはずだ。横綱、大関にちょっと張られるとびびってしまう力士が目につくなか、2人に共通するのは上位戦になるほど力を出せる強い精神力だ。どんな相手にも決して怖がらず、逆に燃えるタイプ。そういう力士の方が強くなるし、伸びていく。ちょっとした努力や工夫で、すぐに大関に上がれるだけの実力はある。
特に先場所優勝した貴景勝は引き技もたまにあるが、基本的には前に出ることを考えたうえでの引きだ。前に出られなかったところで引き、それでも相手が崩れなければまたそこから攻める。相手を呼び込むような引きで墓穴を掘ることがまずない。引いて崩して前に出る。体は小さいが、なかなかまわしを取られないし、差させない。四つ相撲からすれば、やりにくいことこの上ない。あとは押す力がさらにつけば本当に強くなれるし、余計なことをしなくても勝てるようになる。御嶽海も、幕内上位に定着する力士があまりいないなか、12場所連続で三役を務める安定感がある。相撲センスという絶対的な素質を持っていると思う。
期待の3番手は、貴景勝のライバルである阿武咲(22)。故障もあって少し伸び悩んだが、前に出る馬力もあるし、一気に攻めきれる力がある。怖がらないで思い切って相撲を取れるのもいい。25歳前後までを若手とするなら、あとは北勝富士(26)、朝乃山(24)、豊山(25)。何をしてくるか読めない阿炎(24)、不器用だけれど前に出る気持ちが伝わってくる輝(24)も面白い存在だ。十両なら貴源治(21)、若隆景(24)、炎鵬(24)。幕下まで目を広げれば、大横綱大鵬さんの孫で元関脇貴闘力関の息子、納谷(18)、元横綱朝青龍関のおいの豊昇龍(19)、先代の佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)の孫で佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)の息子である琴鎌谷(21)の3人は話題性もあるし将来が楽しみ。彩(26)や竜虎(20)、若元春(25)も有望株だ。
ここまでたくさんの名前を挙げてきたが、正直なところ現状の若手には物足りなさを感じている。初場所の前頭5枚目までの幕内上位を見ても、実に20人中13人が30代だ。若手は何をやっているんだとさえ思う。生きのいい若手がもっと上位陣を突き上げていかないといけない。そうでないと、世代交代などまだまだ先の話になる。
■幕内昇進とともに稽古量が激減
最近の若手は「コンディション」や「調整」などと言っては、ベテランのような稽古のやり方をする。経験者と同じようなことしかやらず、下手をするとベテランより運動量が少なかったりする。
昨年12月の冬巡業に行ってきたが、稽古をしているのは同じ力士ばかり。三番稽古の時間になると、三番稽古に入っていない力士はみな土俵の周りからいなくなってしまう。そんなことで強くなるわけがない。白鵬をはじめベテランがなぜ上位にいられるかといったら、若い頃にちゃんと稽古をやってきたからだ。稽古をしていれば上位に定着できるが、稽古をしない力士はたまに上位に上がってはすぐまた落ちてと、行ったり来たりの繰り返しになる。やがて徐々に体力が落ちていき、知らぬ間に中堅どころから脱落していく。上位にもまれ、その中で生き残っていくことで、地力がついてくるはずなのに。
幕内を終着点とでも思っているのか、せっかく幕下までしっかり稽古をやってきたのに、上がった途端に稽古をやらなくなる力士がとにかく多い。相撲取りの人生なんて10年、長くても20年ほど。15歳で入門したなら現役生活は15年がいいところだろう。学生からなら力を出せる時期は10年そこそこしかない。
10代でしっかり基礎をつくり、体の芯を鍛える。そこから相撲を覚え、また鍛えて体を大きくしていく。若いうちに目いっぱい稽古をして土台をつくり、自分の行けるところまでいかないと、すぐに力は落ちていく。30歳を過ぎて伸びるなんてことはまずないのだ。師匠も弟子にあわせて甘やかすのではなく、がんがん稽古をさせて厳しく指導しないと、本人のためにもならないだろう。
一言言わせてもらえれば、御嶽海は絶対的な素質があるのに、それだけで大関に上がろうとしているように映る。だとしたらそれは甘い。一度負けると黒星が止まらなくなるのは、15日間を戦うスタミナが不足している面もあるのではないか。北勝富士もいいものを持っていて、期待をかけている親方もいるのに、巡業で稽古をする姿が見られない。朝乃山や豊山からは上へという欲が見えない。歴代の横綱や大関は、素質だけでなく努力があったからこそ昇進している。どの力士にも関取に上がる前、必死に稽古に打ち込んだ時期があるはずだ。そのころの思いを忘れることなく、もっと謙虚な気持ちで稽古に打ち込んでほしい。
(元大関魁皇)