ビヨンドネクスト、医師起業家ファンドの勝算
ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズ(東京・中央)が医師起業家向けの「アントレドクターファンド」を設立した。以前から創薬などヘルスケア領域へ積極的に投資してきたが、医師出身の起業家を支援する姿勢を明確に打ち出す。伊藤毅社長に狙いを聞いた。
――アントレドクターファンドの設立の背景は。
「医師起業家の増加を肌感覚で実感している。投資対象が増える領域に注力していきたい。メドピアやヘリオスなど、上場している会社にも医師が起業した企業はある。成功事例や先行事例が出てくることで、似た環境の人の起業が増えていくだろう。臨床経験なしで起業する人も良しあしはあるが出ている」
「当社は大学発など技術系スタートアップを中心に投資している。2015年に始めた1号ファンド(55億円)に続いて18年10月に立ち上げた2号ファンドは100億円規模を目指している。アントレドクターファンドは2号ファンドの枠内で運営し、10億~20億円程度とする計画だ」
――医師の起業が増えているのはなぜでしょうか。
「医工連携の取り組みは以前から存在したが、医師が主導しすぎてうまくいかないケースもあった。スキルのある医師自身が使える段階で満足し、多くの人に使える製品・サービスにならないことがあった。しかし現在30~40代で医師経験が10年未満で起業した人は、偉ぶらず比較的柔軟でセンスもある」
「医療系のビジネスは臨床医であること自体が信用・信頼を勝ち得やすい。医師起業家はエビデンス(証拠・根拠)ベースでプロダクトの価値を示していくタイプが多く、ユーザーや投資家から信頼されやすい」
――どんな事業の開発を期待しますか。
「医療現場は非効率な部分が放置されてきた。医師起業家を支援することで医療の非効率な部分が改善できる。患者にもメリットがあり、社会的にも医療費の削減につながると考えている。専用ファンドを設立することで、起業する医師の人たちに認知してほしいと思っている」
――資金以外でも人材供給や育成プログラムなどでスタートアップを支援しています。
「約1500人の人材供給のプールがあり、社長など幹部候補やアドバイザーなどを紹介している。大学・研究室の事業創出を支援するアクセラレーションプログラム『BRAVE(ブレイブ)』や、東京都から委託を受けて創薬系ベンチャーを支援する『Blockbuster(ブロックバスター)TOKYO』も運営している」
「19年2月には東京・日本橋にシェアラボ(共同の実験施設)も開く。アクセスの良い身近な場所で実験ができれば起業の機会につながるのではないかと考えている。今後もチャレンジする人たちを多面的に応援していきたい」
記者の目
起業する医師が増えている。一般的に医師の「独立」といえばクリニックの開業。しかし最近は医療現場を離れ、あるいは臨床と並行して事業を興す起業家が相次いでいる。エムスリーが2018年4月に実施した医師の起業に関する意識調査では、開業医の12.5%、勤務医の18.3%が「起業する予定」または「起業したいと思っている」と回答した。
こうした動きに着目したのがビヨンドネクストベンチャーズだ。伊藤社長は大手VCのジャフコ在籍時からサイバーダインなど技術系のスタートアップに投資してきた。2014年に独立して立ち上げたビヨンドネクストでも大学発や医療・ヘルスケア系スタートアップの支援に多面的に取り組んでいる。
医療関連の起業は研究開発そのものだけでなく、薬事承認や特許の取得、医師会や医療機関との関係づくりなど特別な知見や人脈も必要だ。アントレドクターファンドを立ち上げ医師起業家の支援実績を積み上げることで、医師に信頼されるVCとしてのノウハウの一層の蓄積が期待される。
(企業報道部 佐藤史佳)
[日経産業新聞 2019年1月8日付]
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