皇位継承儀式、ぎりぎりの調整 「我々はプロ」
(ルポ迫真)
「宮内庁長官は聞く耳を持たなかった」。2018年11月、恒例の誕生日会見に臨んだ秋篠宮さま(53)は山本信一郎長官(68)を名指しで批判された。
宗教色の強い大嘗祭(だいじょうさい)への公費支出に対する疑義、そして前例踏襲で巨費を投じることに対する不信感が皇族から示されたのだ。
山本長官には心外だったかもしれない。天皇陛下から「即位関係の諸儀式については、東宮とよく相談して進めてほしい」と指示を受けて、皇太子さまの了解を得ながら政府との協議を重ねてきた。できるだけ簡素に国民の負担を小さく――。これが陛下の一貫した意向である。
19年10月、国内外の賓客を集めて執り行われる即位礼正殿の儀と祝宴「饗宴の儀」の規模を巡る議論。連日連夜の行事が続き両陛下をして「過酷な日程だった」と言わしめた前回の反省を踏まえ、山本長官は規模拡大の可能性を探る官邸側に粘り強く理解を求め、招待者数や祝宴の回数を抑える結論に導いた。
祝宴に立食形式を取り入れたのも山本長官の発案。庁内事務を担う西村泰彦次長(63)は「儀式の日程の間隔も空いた。ご負担軽減という意味では良かった」と同調する。しかし庁内には皇室の格式という観点から「立食」に対する異論が残る。政府、皇族、足元の役所内。ぎりぎりのバランスを取りながら皇位継承の準備を仕切る難しい立場。山本長官は機会があるたび職員に檄(げき)を飛ばす。「我々はプロだ。全庁一丸で進んでいこう」
諸行事、儀式の大枠を固めつつ、調度や衣装など細部の準備は陛下の退位を実現する特例法成立直後から進められてきた。大嘗祭で使う米はカメの甲羅を熱して出来る割れ目で収穫する田を占う。「アオウミガメの甲羅を探しています」。皇居から南に約1千キロ、小笠原村役場の安藤武史さん(41)に宮内庁用度課から電話が入ったのは17年12月。小笠原諸島では特別に捕獲が認められており安藤さんは漁協を通じて8枚の甲羅を調達した。だが、担当者は謝意とともに「儀式で使えるように薄く加工できる職人が見つからない」と悩みを打ち明けたという。
皇室の祭祀(さいし)をつかさどる楠本祐一掌典長(71)は平成の代替わりを知る宮内庁の長老。「難題はこれからも出てくる。でも、できることをやればいい。大事なことは国民が納得して、新しい象徴の誕生を祝えるかどうか。今は生みの苦しみの時期だ」と話した。