米移籍を希望 夢膨らむ「メジャーの菊池涼介」
編集委員 篠山正幸
日本で育った選手がメジャーに旅立つのを見るのはうれしくもあり、寂しくもある。しかし、そうした感情を超え、この人だけは最高峰の舞台でプレーする姿を一度はみたい、という選手もいる。このオフの契約更改で、将来のポスティングシステムによる米移籍の希望を表明した広島・菊池涼介(28)が、その一人だ。
メジャー仕様のマツダスタジアムという舞台設定もあってか、菊池の動きは試合前の練習から、日本人離れしたにおいを漂わせている。
■自由自在の動きのベースには…
あえてバウンドに合わせることなく捕球するように見えたり、軽業的なバックハンドのグラブトスをしてみたり。よほどの非常時で、いちかばちかのときでないと、実戦ではやらないような動きも混じるが、日ごろの「遊び」が、自由自在の動きのベースになっているようだ。
メジャー、特に中南米系の選手の中にはグラブの背を使って、仲間とバレーボールのような遊びをしてみたり、マリナーズ・イチローのような背面キャッチを披露したりする姿も見受けられる。
それらに技術的な意味があるとはいえないかもしれないが、型にとらわれずに動くという「心の構え方」につながっているのかもしれない。彼らと同様の「ラテン系」とでも表現したくなる楽しげな調子を、菊池の動きは帯びている。
そのリズムとテンポで「もう一度やれといわれてもできないようなプレー」と自ら語るような、伝説的プレーをいくつも残してきた。数え上げればきりがないが、昨季でいえば、巨人とのクライマックス・シリーズ第3戦で、ケーシー・マギーの右前へ抜けようかという当たりを、それこそ右翼の前まで追いかけて捕り、刺したのも信じられないようなプレーだった。
2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では数々の美技でピンチを救い「米国に行けた(ベスト4入りできた)のは菊池のおかげ」(当時の投手コーチの権藤博さん)。
昨季、パ・リーグの二塁手として、ゴールデングラブ賞を獲得したロッテ・中村奨吾は菊池の守備について「ああいう野性的で、超人的な動きはできない」と語っていた。
そんな同業の言葉を借りるまでもなく、日本球界では並ぶ者のない存在になった菊池が、メジャー願望を膨らませるのは自然の成り行きだろう。加えてもう一つ、かなり具体的なきっかけがあったようにも思われる。
17年WBCの準決勝、対米国戦。クリスチャン・イエリチのゴロをはじき、外野に転がる間に二進を許した。これが米国の先制点につながってしまう。雨で打球がスリップし、芝と土の境目でバウンドが変化した。
そのあたりのことは当然、頭に入っていたし、菊池なら処理できるはずの打球だった。あのあと、菊池は自らソロを右翼に放り込み、失点分を取り返したが、悔しさは到底晴れなかったことだろう。
■"リベンジマッチ"の意味合い?
渡米するとすれば、それは、自分の守備はあんなものではない、とあかすための"リベンジマッチ"の意味合いがあるのではないだろうか。
メジャーにいっても、控えの身に甘んじ、出たり出なかったりする選手がいた。それなら、日本のプロ野球で獲得した多くのファンのためにプレーしてほしいと、余計なお世話ながら、思われたものだ。菊池はそういうレベルで四苦八苦する選手ではないだろう。
渡米するなら、メジャーで通用するかどうかではなく、守備であっといわせるスターになれるかどうか、が焦点となる。
もちろん、162試合の長丁場を乗り切ること自体、相当な壁にはなる。また、データに基づき、細かく守備位置が決められるメジャーで「感性でやっている」という菊池のポジショニングの妙が生かされるか、という懸念もあるが、日本が誇る名手として、期待されるラインは当然高くなる。
広島にとっては欠くことのできない選手。ポスティングを認めない、という選択もあって当然だ。球団の事情を考えれば、無責任に背中を押してもいけないが、野性の人が、メジャーの芝の上を駆け回る――という夢想に歯止めをかけるのは難しい。