高橋大輔、自分らしさ貫いた現役復帰1年目
24日まで行われたフィギュアスケートの全日本選手権で男子2位に入った高橋大輔(関大KFSC)。2019年3月20~23日にさいたま市で開催される世界選手権の代表入りは辞退したものの、自分らしく4年ぶりの現役復帰シーズンを終えた。
■「精いっぱい楽しみたい」
純粋に好きという気持ちで競技に向き合うとき、人は強いものだ。「僕は結果を求められていないし、勝たなくてもいい。あと何十年もできるわけじゃないから、精いっぱい楽しみたいと思っている」。ショートプログラム(SP)を2位発進した後、高橋はこう話した。女子テニスの伊達公子さんが37歳で現役に復帰して、20代のころより生き生きとプレーし、マリア・シャラポワ(ロシア)らひと回り以上も若い選手に勝っていた姿を思い出した。
全日本のSPで2位に入り、「フリープログラムの最終グループに入る」という今季の目標は達成。その先のことまでは考えていなかったから、後は「思い切り全力でいこう」と、フリーで4回転トーループに跳んだ。結果は回転が抜けて3回転トーループに。大会の2週間前から4回転ジャンプの練習を始め、公式練習を見る限りその成功率は3割以下だった。銅メダルを取った10年バンクーバー五輪前のように「4回転の失敗は織り込み済みで、その後をノーミスで滑る」というトレーニングまではできていなかったようだ。
7つの要素があるジャンプのうち、6つでミスした初戦の近畿選手権大会ほどではないが、5つの要素でマイナス評価が出て「ふがいない」と高橋。フリーの技術点だけなら12位だった。調子は悪くなかったものの、「緊張感の中で4回転を跳ぶほど練習ができていなかった」と振り返った。
これだけミスをすれば、ほとんどの選手は気落ちしてプログラムの破綻は避けられないのに、高橋の演技構成点は88.50点。プログラムに4回転ジャンプを4つ入れて優勝した宇野昌磨(トヨタ自動車)と比べても1.42点差しかない。ステップシークエンスの得点は5.79点、コレオシークエンスは5.36点と、3回転フリップの基礎点(5.3点)よりも高い評価を得て、フリーは4位に入った。
「質は映像を見ないとわからないし、足にきたところもあったけれど、パッション、エナジー的にはまあまあ。試合としては悪くない。ここまでの3試合では一番かな」
新採点システムが導入されて約15年、4回転ジャンプに高得点が出やすいようにルールが変更されて間もなく9年になる。選手は練習でも試合でも、ジャンプに集中させざるをえなくなった。パトリック・チャン(カナダ)も引退して、指先からつま先まで神経が行き届いたスケーティングで、会場を支配するタイプのスケーターが希少になりつつある。そうした高橋のスケーティングは、公式練習でも際立っていた。曲にのせて高橋の直後に滑る選手の演技には、これまで気づかなかったアラが目立った。
「時代とともにスケートも変わるから。でも高橋大輔はいいなと思ってもらえたら、改めて自信になる。高橋大輔はレジェンド(伝説)と呼ばれていただけのことはあると思ってもらえたら」と話していたが、それはある程度できたのではないだろうか。08年に右膝靱帯を断裂する前まで、膝のバネが十分きいていた当時の姿を実際に見たことがないファンや選手も増えてきた。過去のスコアシートも見ることができる今、4回転ジャンプを2回以上決めた試合が数えるほどしかない高橋に、「どうしてレジェンドなのか」と思っていた人も少なくないだろうから。
■「若い選手に経験してほしい」
世界選手権の代表入りを辞退したのも高橋らしかった。今季の会場は、4年前に断念した世界選手権と同じさいたまスーパーアリーナだ。全日本2位の看板を引っ提げ、正々堂々と出場していいはずだが、辞退した理由について「世界で戦うプレッシャーに打ち勝てる自信がない。32歳の僕にこの先、希望があるかといえば正直(言って)ない。若い選手に世界選手権でしかできない経験をしてほしい」と高橋。正直な感想だろう。1つの4回転ジャンプを演技の中に入れるのに難儀しており、「今のフリーでは勝てない」。
高橋自身、かつてシニアの大会に出場するようになったころ、全日本での結果いかんにかかわらず、将来性を見込まれて世界選手権代表などのチャンスをいくつも与えられてきたのだ。「自分が(代表を)勝ち取りたい気持ちと同じくらい後輩が成長して、羽生結弦選手(ANA)や宇野選手を抜かすほどレベルアップしてほしい。冷静に考えたら僕(が代表)じゃないだろう」。全日本の観客席に空席が目立ち、女子選手ばかりが話題になった時代を経験している高橋は、注目を集め続ける大変さを身をもって知っている。
「高橋らしさ」を貫いた復帰1年目のシーズン。惜しむらくは、特に素晴らしかったと評価できるフリープログラムを世界に披露する機会がないことだ。今後については明言を避けたから、来季以降に期待したい。
(原真子)