FC今治、J3昇格へ来季は失敗許されぬ
日本フットボールリーグ(JFL)からJリーグ3部(J3)への昇格を目指した2018年シーズン、私がオーナーを務めるFC今治は年間順位5位に終わり、目標を達成できなかった。負け惜しみととられるかもしれないが、今はこれでよかったのだと前向きに受け止めている。
今年はどんなことがあっても、J3に昇格しなければならないと強く思っていた。でないと、スポンサーにもファンにも見限られるだろう。そんなプレッシャーを常に感じながらの一年だった。
しかし、成績は思うように伸びず、チームに漂う閉塞感から、シーズン途中で吉武博文から工藤直人へと監督交代に踏み切らざるをえなくなった。そこからもさまざまな曲折を経て、チーム全体が死に物狂いになってから終盤に6連勝し、J3昇格を視界にとらえた時期もあった。が、最後の2試合が負け、引き分けに終わり、ファンの期待を裏切る結末を迎えた。
■ファンやサポーターが最後まで応援
うれしかったのは、昇格するには奇跡でも起こさないと無理という状況の最終節(11月18日)のホームゲームに、約4700人のお客さんが詰めかけてくれたことだった。他会場の途中経過で今治の昇格が絶望的になっても、ファン、サポーターの皆さんは最後の最後まで声をからして応援してくれた。
驚いたのはそれだけではない。ホンダロックSCとの最終節に引き分け、たくさんの罵声を浴びるのかと覚悟したら、逆に温かい言葉をかけられた。それも「来年は絶対に上がるぞ」という一人称で。チームとファン、サポーターが一心同体になっていると思えた瞬間だった。
すんなりと事が運ぶより、あちこちに頭をぶつけながらでも、一歩ずつ前に進んでいく方がクラブへの愛着は増すのだろうか。そう感激しながら、ファン、サポーターの厚情に応えるためにも、来年は「あの苦しい18年があったから今がある」といえるシーズンにしなければならないと、誓いを新たにしたのだった。
昇格を逃したにもかかわらず、来季のスポンサー料は今季より増える見込みだ。ありがたいのと同時に「最後のチャンスをくれたのだ」と、身が引き締まる思いでもある。来季もダメだったら今度こそ「いいかげんにしろ」となるのだろうと。
私自身は今、猛烈にファイトが湧いている。来年に向けた体制づくりを着々と進めている。
まず、監督を代えた。FC今治内部からという前提の中、J1の広島やJ2の熊本で監督を務めた小野剛にチームを託して来季は戦う。今季途中から指揮を執った工藤も将来は指導者として大きな花を咲かせると見込んでいる。周りも続投させるものと思っていたようだ。
それでも代えたのは能力の問題というより、経験豊富な新監督の手腕に期待してのことだ。
監督として失敗しながら私も学んだことだが、シーズン途中でチームを任され、無我夢中というか無心で目の前の試合を戦うのと、1年というスパンでチームを預かり、チームづくりと勝利の二兎(にと)を追うのは別種の難しさがある。シーズン途中からチームを引き受け、成功した比較的経験の浅い監督を次のシーズンも続投させると、8割方失敗するというのが各クラブのゼネラルマネジャーの間の常識になっているくらいである。
なぜ、失敗してしまうのか。後者の立場になると、どうしても妙な色気というか、「今季はこういうチームにしよう」「今季はこういうサッカーをしよう」という欲が出る。監督なら当然のことだし、大切なことなのだが、新しいことにトライして、それがもくろみどおりに運ばないとき、経験が乏しいのでうまく軌道修正することができない。それで沈んでしまうことが多いのである。監督はそうやってつまずきながら成長するものだが、来季の我々は失敗が許されない。
経験があれば確実にJ3に上がれるわけではないが、昇格がマストになる来季、監督経験が豊富な小野に託した方がリスクは確実に小さくできると判断した。
チーム編成の大方針にも修正を施した。監督の意見を採り入れつつも、クラブが主導して戦力を整えることにした。米国の大リーグ方式というか、クラブが大枠をつくって集めた選手を、監督はキャンプ中に戦力になるかどうか吟味する。戦力外と判断したら、他のクラブにレンタルなどの形で貸し出す。「契約を更改したから俺は安泰」みたいな雰囲気に、新シーズンに向けたキャンプ中でも、選手をさせないためだ。出場機会を得たレンタル先で成長してくれたら、故障者が出た場合にチームに呼び戻すこともできる。
■スタートダッシュがとても大事に
来季は開幕3連戦のスタートダッシュがものすごく大事になると思っている。いいスタートを切るには圧倒的に勝っていく力がいる。クラブの決算が3年連続赤字だと、Jリーグから発給されたクラブライセンスを取り上げられることにつながるが、来季は勇気を持って赤字覚悟の戦力補強を行うつもりでいる。
先日のJリーグ理事会で、クラブライセンス取得に必要なスタジアムの要件が緩和された。これはいい決定だと思っている。1993年に10クラブで始まった時代ならいざ知らず、J1からJ3まで54もクラブがある時代である。外国には乾貴士が昨季まで所属したスペインのエイバルのように、8000人収容のスタジアムで立派にトップリーグで戦っているチームがある。1000万人の人口を後背地に持つ都市のクラブと、16万人しかいない今治のようなクラブを一律の条件で縛ること自体、問題があると、かねて思っていた。
来季からJ1の外国人枠は3人から5人に拡大されることも決まった。外国人枠を広げると、日本人選手の出場機会が減って、特に若い選手が育たなくなると心配する向きもあるが、私自身はそれほど大した問題だと思っていない。枠を厳しく制限して日本人選手を保護したところで、本当にやる気のある選手はどうせ海外に出ていく。日本国内でもある程度、一流の外国人選手と勝負ができる環境をつくってやらないと、むしろ伸びる機会を失うと思っている。
外国人枠を拡大する一方で、Jリーグはホームグロウン制度も採り入れることにした。自前の育成機関(アカデミー)で育てた選手をトップチームに加えることを義務化したものだが、こちらも趣旨を履き違えると混乱のもとになる。あくまでもこの制度はトップチームに登録できるような素晴らしいタレントを育てなさいという意味であって、その力もないのに「そういうルールだから」という理由で無理やりトップチームに引き上げるようなことになると本末転倒になる。
よかれと思った制度がサッカーをダメにする実例は中国で監督をしているときに私も経験した。若い選手を育てるためにリーグが「先発メンバーに必ず何歳以下の選手を入れろ」と制度化したところ、そうやって出場した選手が開始から5分で一斉にベンチに下げられる事態が頻発したのだ。こういうことはルールではなく、自然にそうなるような環境をつくっていくべきなのだ。
■「スタジアムを満杯に」が出発点
話を今治に戻すと、今年は株主の構成を変えた。私の持ち分を減らし、今治造船と日本食研ホールディングスを筆頭に今治の中心企業4社に株主に加わってもらった。これでFC今治が地元経済界から支持されていることを内外に発信できる。我々の信用が格段にアップすることになる。これはJ1仕様のスタジアム建設にも追い風となると思っている。
株主については将来、株式公開(IPO)を実施し、市民クラブとして広く出資者を募る考えもある。
スポーツビジネスの原点は常にスタジアムを満杯にすることだと思っている。満杯でチケットが取れない、それでも見たい人はテレビで見ようとする、だから放映権料が上がり、グッズなども売れるという循環が生まれる。スタジアムを埋めることがすべての出発点になる。
その埋め方を、レアル・マドリードのように「銀河系」と呼ばれるほどスター選手をかき集めて果たすやり方もあれば、そうした資金力のないクラブは違うアプローチを編み出していかなければならない。
今治の場合は「サッカーをやっているから見にきてほしい」というだけでは誰も見にきてくれない。サッカーを見なくても楽しんでもらえる場をつくるとともに、自分たちの方から地域のコミュニティーとたくさんの接点をつくって興味を持たれるしかない。それで「孫の手運動」や「子ども食堂」といったボランティア活動にも力を入れている。
新しくつくりたいと考えているスタジアムは、そういう活動の一大拠点にしたいとも思っている。あらゆるモノがネットにつながるIoT時代にふさわしい最先端のスマートスタジアムでありながら、人と人とが触れ合える、ぬくもりのある「場」でもある。そんな夢を持ちながら、新しい年を迎えたいと思っている。
(FC今治オーナー、サッカー元日本代表監督)