ルネサスが挑む「CASE」 250社と組みソフト強化
半導体大手のルネサスエレクトロニクスが自動車の次世代技術「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」への対応をスピードアップする。車載分野では世界2位の座にいる。異分野から参入や競合メーカーの統合が相次ぎ、厳しい業界環境のなかで、勝ち組への視界を見通しづらい。外部企業とのパイプを強めて、成長市場で揺るがない地位を固める。
夜間でも人と車、バイクを同時認識できます――。今年10月、ルネサスは車載分野のパートナー企業と開いたイベントで小型自動運転車のデモを披露した。
周囲をぐるりと見渡せる3次元サラウンドビューカメラや、次世代センサーの「LiDAR(ライダー)」の情報をもとにした自律走行や駐車を可能にした。このデモカーで、重要な役割を果たすのが状況を認知する大規模集積回路(LSI)の上位製品、「R-Car(アールカー) V3H」だ。2月に発表した。
処理性能を従来製品に比べ5倍に高めて、人が運転に原則かかわらない「レベル3」以上の自動運転システムに必要な車載カメラシステムの制御を担う。自動車メーカーや大手部品メーカー5社程度からすでに引き合いがあるという。
車載半導体市場は高成長が見込まれている。英IHSマークイットによると、レベル3の自動運転車はガソリン車の3.6倍にあたる1台当たり800ドルの半導体を搭載する。ただ、その内訳は変わる。「走る」「曲がる」「止まる」という基本制御への対応から飛躍的に伸びる。
こうした車載マイコンを毎年10億個以上つくるルネサスだが、それだけではCASE対応はおぼつかない。
自動運転の普及で求められるのが、自動運転の認知や判断をつかさどる半導体や、クラウドとつながりクルマ全体の司令塔となる半導体だ。米エヌビディア、米インテルといったパソコン向けプロセッサーに強みを持つメーカーがこうした領域に参入を進めている。スマートフォン(スマホ)向けプロセッサーで実績のある韓国サムスン電子も10月、車載プロセッサーの新ブランドをここにきて立ち上げた。
ルネサスは自動運転の状況判断を担う「R-Car H3」を2015年に発表した。トヨタ自動車が20年の実現を目指す自動運転車での採用を決めている。状況認知を担う「R-Car V3」シリーズと組み合わせて顧客メーカーに売り込む。
エヌビディアやインテルがパソコンで誇る処理性能をアピールする。一方で、ルネサスは車載で培ってきた性能と消費電力のバランスの良さを誇示する。
CASE時代の半導体のもうひとつの競争軸となるのがソフトウエア。エヌビディアはエンジニアの約半分がソフト関係という「ソフトウエア企業」(幹部)の面がある。インテル傘下の画像処理半導体大手、モービルアイも自社の半導体とソフトを統合したソリューションを売りにする。ここでは、ルネサスは外部のパートナー企業と協業することで対抗する。
10月にはパートナー企業向けに、米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービスを活用したコネクテッドカー用ソフトの開発ツールを発表した。地図や天気予報といったクラウド上のデータと車から取得したデータを組み合わせる。最適な運転ルートを見つけ出すなどの新サービスの開発につなげる。開発したソフトはルネサスの半導体上で動作する。
ルネサスがソフト会社などと作る企業連合「R-Carコンソーシアム」のパートナー企業数は18年だけで33社が加わり、251社に達した。直近で目立つのはソリューション全体をまとめ上げるシステム開発会社の加入だ。ルネサスはパートナー企業を「顧客のニーズに応じて編成し直した上で、メニューとして提案する」(吉岡真一執行役員)。柔軟な開発体制を整えて、勝ちパターンを導き出す。
ルネサスはパートナー企業との連携し、差別化したクルマを作りたいという顧客のニーズに対応する考え。それは付加価値がルネサスの外に流出するリスクと隣り合わせ。どこを自社で手掛け、どこを外部に任せるか「境界面の定義が重要になる」(吉岡氏)。
既存の車載半導体メーカーとの競争も激しくなっている。15年に米フリースケール・セミコンダクタを買収して車載首位に立ったオランダNXPセミコンダクターズは、17年に処理性能を大幅に高めたマイコンの新シリーズを発表。順次製品投入を進める。「ルネサスのマイコンは制御系のシェアは盤石だが、新規分野は欧州系メーカーの採用も増えている」(国内アナリスト)。
ルネサスは17年2月の米インターシル買収や、18年9月に発表した米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収に動く。利益率の高い汎用品ビジネスや、データセンター向け半導体など事業ポートフォリオの拡大を狙う。 すでに高いシェアを誇る車載分野は実は"守り"の分野ともいえる。激変するマーケットで「量産車のところは明け渡さない」(呉文精社長)との決意をあらわにする。それだけに戦略の巧拙が問われるターニングポイントでもある。(龍元秀明)