東北電、かわいさで仕掛ける家庭のAI・IoT
東北電力がかわいいロボットを使って家庭への人工知能(AI)と、あらゆるものがネットにつながるIoTの浸透をめざしている。新技術で省エネや子供の見守りサービスを実現させて、安さをうたい文句にする新電力との違いを打ち出すのが狙いだ。
「お帰りなさい。おやつが冷蔵庫にあるよ」。食卓に置かれた高さ20センチ程度のかわいらしいロボット「BOCCO(ボッコ)」が、帰宅した小学4年の男児に声をかける。ここは仙台市にある東北電社員、類家純嗣さん宅。同社が2019年夏以降の事業化をめざす家庭向け見守りサービスの社員宅での実験だ。
ボッコには会話機能や音声を認識しスマートフォン(スマホ)にメッセージを送る機能などがある。玄関の鍵が動くと父、類家さんのスマホに通知があり、長男の帰宅を確認した父がスマホで送ったメッセージをボッコが読み上げたのだ。
原田宏哉社長は11月の記者会見で「電気だけでなく暮らしを幅広くサポートするサービスが求められる」と語った。その手段に中期経営計画ではAIやIoTの活用などを掲げている。
ボッコも目玉施策の1つ。家庭用ロボットとして一般に販売されているが、東北電はメーカーと共同開発してエアコンの操作補助など独自機能を備えた。AIやIoTが実現するであろう近未来の生活を利用者に少しでも感じてもらう。
11月からは本格的なAIを使った子供居場所確認サービスを始めた。子供に全地球測位システム(GPS)端末を持たせ、AIが学校や塾など子供のよく行く場所を学習する。その場所を出たときや普段行かないところに行ったとき親のスマホに通知する。
子供の見守りは従来の事業とは関係ない。ただ東北でも共働き家庭が増え、子供の留守番も増える中で家庭生活を支援するサービスは需要があると判断した。
省エネも新技術で支援する。家電製品別の電気使用量を推定するシステムを使い、家電の使い方をメールやLINEで指南する事業も発表しており、19年以降、本格的に始める考えだ。
電力広域的運営推進機関によると、東北電管内の家庭などの電力契約切り替え件数は11月末で約43万件だった。新電力への一定の流出があるほか、域外での新規顧客獲得も振るわない。
首都圏の家庭向けの契約件数は、取り込み可能とみる1万件に対して約2320件程度にとどまる。他社との違いを打ち出す戦略は欠かせない。
AIなど先端技術を活用しながら、家庭の中に一歩踏み込んで世話を焼く一連のサービスで電気以外に魅力を発揮できるのか。初めての試みも多く1年程度の検証期間を設けるなど慎重に進めているが、ファン固めの取り組みは待ったなしで求められる。
(酒井愛美)