WTO加盟国の貿易制限、7倍に増加 保護主義広がる
【ジュネーブ=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)は11日、2017年10月から1年間に加盟国が取った貿易制限措置の対象額は5883億ドル(約67兆円)に上ったと発表した。米国発の貿易戦争で保護主義的な通商政策が広がり、前年同期に比べ約7倍に膨れ上がった。WTOは雇用など世界経済に与える打撃が大きいとし、各国に事態収拾に向けた対応を急ぐよう求めている。
調査対象期間は17年10月16日~18年10月15日までの1年間。期間中、追加関税や輸入制限など137件の新しい貿易制限措置が取られた。一方、関税撤廃など貿易促進措置は162件で、対象額は2956億ドルと約2倍に増加した。
WTOは世界のモノの貿易量の前年比伸び率を18年が3.9%、19年を3.7%と予測。今後、貿易戦争の影響で鈍化していくとみている。
トランプ米政権は2500億ドル分の中国製品に追加関税を課し、中国は報復した。米中は1日の首脳会談で互いの追加制裁を90日間猶予したが、貿易戦争が収束に向かうかは不透明だ。
さらに米国は安全保障の脅威になっているとして欧州連合(EU)やカナダなどから鉄鋼とアルミニウムの輸入も制限し、各国が対抗措置を取った。この米国の輸入制限を不服として9カ国・地域がWTOに提訴。一審にあたる紛争処理小委員会(パネル)が設置され、19年から審理が本格的に始まる見通しだ。ただWTOは安保を理由にした紛争案件で判断を下したことがなく、審理は長期化しそうだ。
WTOのアゼベド事務局長は「(貿易摩擦の)さらなるエスカレーションは経済成長や雇用、消費者物価に悪影響を与え、世界の貿易にとって大きなリスクになる」と危機感を示した。加盟国にあらゆる手段を講じて状況の改善に努めるよう求めた。