ポンド、否決なら不安定に 英EU離脱協定の採決焦点
今週の外国為替市場では欧州発の材料が相場を動かしそうだ。なかでも英議会下院が11日に予定する、英国の欧州連合(EU)離脱の協定案採決が注目されている。与党保守党の強硬離脱派から反対が根強く、現時点では否決される公算が大きい。そうなれば離脱の先行き不透明感が強まり、英通貨ポンドは売られて不安定になるとみられる。
英国は2019年3月29日にEUを離脱する。経済活動の混乱を防ぐ「移行期間」を導入するには、英・EUがまとめた協定案の双方の議会での承認が要る。だが英下院では野党が軒並み反対で、無期限にEU関税同盟に残る可能性に反発する与党議員の大量造反も見込まれる。承認を得るめどは立っていない。
市場参加者も否決と読んでいる。野村インターナショナルが欧米のヘッジファンドなど顧客約80社に聞いたところ、可決の予想確率は平均25%にとどまった。とはいえ次の手を探る政界は混迷が必至で、否決後はひとまずポンド安に傾くとの見方が多い。前週1ポンド=1.26~27ドル台で動いた対ドル相場は「1.20~25ドルにレンジを切り下げる」(在英邦銀)との声が聞かれる。逆に可決ならポンドは大きく値上がりするだろう。
離脱協定案が否決されてもすぐに「無秩序離脱」が決まるわけではない。EUとの再交渉や離脱期限の先延ばしなど、残り3カ月余りで様々な手が模索されることになる。
11日の採決で投資家が注目するのはメイ英政権の「負け方」だ。市場では反対が賛成を50~100票ほど上回るとの見方がある。米バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのサイモン・デリック氏は「想定以上に票差が大きいと首相交代や総選挙などのリスクが高まるため、ポンドはネガティブに反応するだろう」と語る。相場は票差の度合いに左右されるとの見方だ。
もう一つの注目イベントが13日の欧州中央銀行(ECB)理事会だ。量的緩和政策の年内終了の最終決定が見込まれ、金融正常化への次の段階である利上げの開始時期が焦点になる。ECBは「19年夏までは現状を維持する」と説明してきた。新たにどんなヒントを示すか関心が高い。
米中貿易戦争による世界経済への悪影響に懸念が深まり、ユーロ圏の景況感も陰りが濃くなっている。物価を押し下げる原油安も進み、19年中の利上げは難しいとの見方が増えてきた。政策とともに示す経済見通しやドラギ総裁の記者会見発言に弱気な見方がにじめば、利上げ先送り観測がユーロを圧迫しそうだ。
英国のEU離脱不安やECB利上げの先送り観測が強まれば、英独の長期金利の低下が米金利の押し下げにつながる。投資家がリスク回避の姿勢を緩めにくい展開が続きそうだ。
(ロンドン=篠崎健太)