FRBを疑え、金融政策不信が株価急落誘発
債券市場が米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営に不信任票を投じている。米国経済は利上げ継続に耐えうるのか。FRBの経済見通しは楽観的に過ぎるのではないか。FRBが判断を誤るリスクがマーケットで意識され、その不安感が、米中首脳会談への懐疑論と共振して、米株式市場でダウ工業株30週平均は前日比799ドル安と急落した。
イエレン前議長時代は「FRBに逆らうな」と言われたものだが、パウエル議長の時代に入り、「FRBを疑え」が市場のスローガンになりつつあるのではないか。
長短金利の逆転現象も、世界経済への減速懸念とともに金融政策の混乱を映す現象として不安視される。
しかもトランプ米大統領は、FRB批判のトーンを強めている。「FRB議長人選を誤ったかも」と語ってはばからない。株価急落も「ジェイのせいだ」(ジェローム・パウエル議長のニックネーム)と言い出しかねない。それを予期してか、ムニューシン米財務長官は「FRB議長の仕事は非常に難しい。ジェイは、オバマ政権時代の遺産(量的緩和の後始末)を処理せねばならない。」と同情的に発言している。
4日の市場の話題は、期間の長い金利が短い金利を下回る「長短逆転(逆イールド)」でもっとも代表的とされる2年債と10年債の利回り格差がマイナスになる現象がいつ起きるか、ということであった。
2019年前半か、あるいは12月利上げの直後か。意見は割れる。さらに、逆イールド現象が仮に生じたとして、そこから危惧される景気後退が始まるとすれば、どの程度のタイムラグがあるのか。半年か、それとも一年か。少なくとも、いきなりリセッション(景気後退)とはなるまい――、など様々な見解が飛び交う。
そもそも逆イールドは本当に景気後退のシグナルといえるのか。過去の事例と比較すると経済環境が劇的に変化しているので、「今回は違う」のではないか、との反論も根強い。
なお、市場内要因としては、「長短金利逆転」というキーワードがアルゴリズム取引のソフトウエアにインプットされ、機械的に売り注文が発動され、売りの連鎖が生じていることが無視できない。ほぼ800ドルものダウ平均急落は、人工知能(AI)に任せるリスクも浮き彫りにしている。NY市場では、4日の日経平均株価の急落(538円安)についても、長短金利逆転を先取りしたAIの動きが連想されていた。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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