外交関係の正常化多難、サウジ皇太子 首脳の反応二分
【ブエノスアイレス=永沢毅】サウジアラビアのムハンマド皇太子が20カ国・地域(G20)首脳会議の機会をとらえて外交舞台への復帰を果たした。サウジ記者殺害事件への不透明な対応で傷ついた権威の回復をめざしたが、G20首脳からの反応は非難と歓迎が交錯した。対外関係の正常化はなお多難だ。
G20首脳会議では、カナダのトルドー首相が殺害事件を取り上げた。1日記者会見したトルコのエルドアン大統領によると、ムハンマド氏は「関与が証明されていない問題でサウジ政府を批判することはできない」と釈明したという。サウジ批判の急先鋒(せんぽう)であるエルドアン氏は「信じられない説明だ」と批判した。
ムハンマド氏への厳しい対応が目立ったのは、人権問題を重視する欧州諸国だ。「あなたはいつも私の言うことに耳を傾けない」。11月30日、立ち話で同氏にこう詰め寄ったのはフランスのマクロン大統領だった。ムハンマド氏は苦笑いを浮かべて「いえ、もちろん聞きますよ」と応じた。
ネット上に流れた映像によると、事件を巡って英語で「心配しないでください」という同氏に、マクロン氏は「私は本当に心配している。あなたは分かっているのか」と言い放った。仏メディアによると、マクロン氏は事件の調査に国際専門家を加えるよう要求。メイ英首相もムハンマド氏との会談で、実行犯の責任を問う重要性を訴えた。
トランプ米大統領は正式な会談を避けつつ、短時間の接触には応じた。記者殺害事件を取り上げたかは明らかになっていない。トランプ政権はイランの封じ込めや原油高対策でサウジの協力を重視している。国際社会からのサウジ批判を意識しながらも、会話の内容を明らかにしないことでサウジに一定の配慮を示したといえる。米英仏の首脳とムハンマド氏の会話はG20会議のセッションの合間だった。
これらとは好対照に、救いの手をさしのべたのは中国やロシアだ。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は政権幹部も交えた会談に応じ、サウジが取り組んでいる経済改革などについて「断固支持する」との立場を伝えた。
ロシアのプーチン大統領はG20の場で隣り合わせたムハンマド氏とハイタッチを交わし、にこやかに会話した。両氏は1日の会談でサウジが加盟する石油輸出国機構(OPEC)とロシアの協力維持で一致した。
インドのモディ首相も協力的だった。サウジ国営通信によると、11月30日の会談でエネルギーや投資協力を協議。サウジの国営石油会社サウジアラムコによるインドの製油所や石油の備蓄施設への投資計画を示し、インドが必要とする原油や石油製品を供給する用意があると伝えたという。
中東の衛星テレビ、アルジャズィーラによると、G20期間中にムハンマド氏と接触あるいは会談した首脳はこのほか韓国、メキシコ、インドネシアだった。首相同行筋によると、安倍晋三首相も11月30日に握手とあいさつを交わしたという。
ムハンマド氏としては今回のG20の場を利用して有力リーダーの1人であることをアピールし、国内の権力固めと国際社会からの信頼回復につなげる思惑があった。サウジは2019年の日本に続き、20年にG20首脳会議のホスト国を務める。
ただ、G20開幕にあわせた記念撮影でムハンマド氏が他国の首脳らと交流する場面はほとんどなく、後段2列目の端にぽつんと立った。その光景は「中東の盟主」が今後向かう道のりの険しさを象徴している。