止まらぬ賠償命令、韓国・元徴用工訴訟
【ソウル=恩地洋介】韓国大法院(最高裁)が29日、新日鉄住金に続き、三菱重工業に対しても元徴用工らへの賠償支払いを命じる判決を確定させた。下級審でも同様の判決が続きそうで、日本企業に「歴史」の償いを迫る韓国司法の判断は止まらない。1965年の日韓請求権協定に基づき解決への責任を負う韓国政府が手をこまぬくなか、原告側は企業との和解を望む姿勢を明確にした。
29日に韓国の裁判所は係争中の3訴訟に判決を言い渡した。元徴用工と元朝鮮女子勤労挺身(ていしん)隊員が三菱重工業を訴えた2つの上告審は、大法院が同社の上告を退けた。午後には元徴用工の遺族3人が新日鉄住金に損害賠償を求めた控訴審で、ソウル中央地裁が同社に1億ウォン(約1千万円)の支払いを命じた一審判決を支持し同社の控訴を棄却した。
元徴用工の支援団体によると、日本企業を相手取った係争中の訴訟は残り12件。12月5日と14日にも、元挺身隊の女性らが三菱重工業に賠償を求めた二審判決がそれぞれ予定されている。
「被害者と日本企業の協議による和解を望む」。三菱重工を訴えた原告の弁護士は29日の判決後に記者会見し、同社に和解協議を提案する意向を示した。原告側は企業が「人権侵害」を認め、謝罪と賠償に応じるべきだと主張。2016年に中国人元労働者と和解で合意した三菱マテリアルのケースを例に挙げた。
しかし、日本と韓国の間には1965年の日韓請求権協定がある。日本政府も韓国の歴代政権も、元徴用工の個人請求権問題は解決済みとの立場を取ってきた。原告側弁護士は「韓国政府が努力しなければならない」と述べ、韓国政府に日本側との和解を働きかけるよう促す考えを示した。
原告側が企業の資産や債権を差し押さえる手段を引っ込めたわけではない。新日鉄住金の原告団は同社が3%超を保有する韓国製鉄大手のポスコ株を対象として考えている。弁護士の1人は「和解を探りながら差し押さえ訴訟を検討する二正面の構えだ」と説明する。追加訴訟の提起を探る動きもあり、弁護士グループは12月中に説明会を開くという。
年内に対応策を示そうとしている韓国政府は29日「関係省庁間で協議し民間専門家の意見を集め、対応策を定める」(外務省報道官)とだけ表明した。李洛淵(イ・ナギョン)首相が知日派の元外交官や学者を呼んだ13日の会議では、韓国が賠償に責任を持つべきだとする意見も出た。ただ、そうした意見は韓国世論の大勢とはいえない。
大半のメディアは日韓両政府が対策を講ずべきだと論じ、日本政府が元徴用工を「旧朝鮮半島出身労働者」と呼び始めたことに反発する向きもある。請求権協定を交わした際の日本の5億ドル支援が韓国の経済発展を支えた歴史を振り返る視点は、韓国内でほとんど存在しない。
日本政府は韓国政府の出方を見極める構え。菅義偉官房長官は29日の大法院判決に「断じて受け入れることはできない」と強調。外務省の秋葉剛男次官は李洙勲(イ・スフン)駐日大使を外務省に呼んで抗議した。