Jクラブ浮沈を左右 W杯中断期間の妙手とは…
サッカージャーナリスト 大住良之
2018年のJリーグも12月1日の最終節(第34節)を残すだけとなった。大混戦だった「残留争い」はとうとう最終節まで持ち越してしまったが、川崎の連覇はすでに決まった。
6月から7月にかけてロシアでワールドカップが開催された今季。J1は2月23日に開幕して5月20日までに15節を消化して中断に入り、2カ月後の7月18日に再開、12月1日までに19節を消化して閉幕というスケジュールとなった。
■2カ月間の「リセット期間」
例年、前年の上位チームは3月から5月にかけてアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を戦うためJリーグでは苦戦を余儀なくされる。しかし2カ月間もの「リセット期間」があった今季は、中断前に大きく引き離されていなければ十分チャンスがあると思われた。実際、川崎の優勝は「再開後」の好成績によるところが大きい。
表はワールドカップ後の18節(第33節まで)に得た勝ち点数の順位である。
川崎は中断前には15戦して8勝3分け4敗、勝ち点27の3位。だが再開後の18戦は12勝3分け3敗の勝ち点39。1試合平均の勝ち点を、中断前の1.80から中断後は2.17に上げ、一時は13まで開いていた広島との勝ち点差を逆転して優勝を飾ったのだ。
一方の広島は中断前には勝ち点37(1試合平均2.47)で独走状態だったが、再開後の18試合だけをみると、相手に研究された結果か、18チーム中16位の勝ち点19(1.06)と大きく落ち込んで優勝を逃した。とくに9月からの落ち込みようはひどく、9月1日に鹿島3-1で勝ったのを最後に8試合勝利なし。9月29日の第28節からは6連敗で、最終戦の結果次第では鹿島にも抜かれて3位に落ちかねない。
川崎と広島の明暗は最も顕著な例だが、今季のJリーグをみると、再開後の戦い、すなわち5月から7月にかけての2カ月間のトレーニング、あるいは補強の成否がチームの浮沈を決めたといえるようだ。
鹿島は中断前はACLの影響もあって成績が安定せず、11位に甘んじていた。しかしリーグ再開前日に「レジェンド」であるジーコ氏がテクニカルディレクターに就任。中断期間にDF植田直通がベルギーに、再開直後にはFW金崎夢生が鳥栖に移籍するという痛手があったが、すぐにDF鄭昇炫(チョン・スンヒョン)を鳥栖から、そしてFWセルジーニョをブラジルから補強して、再開後は川崎に次ぐ勝ち点37(ただし他クラブより1試合多い19試合)を挙げた。それだけでなくACLでも優勝を果たした。
■18年、まるで「2シーズン制」
「中断前」と「再開後」で最も大きな「豹変(ひょうへん)」をみせたのがG大阪だ。今季はレビー・クルピ監督が就任したが開幕前の調整に失敗して開幕から3連敗。中断前には16位と「降格ゾーン」だった。クラブは中断中の立て直しに期待したが、再開後も広島と清水に連敗。7月23日にクルピ監督を解任して宮本恒靖氏を後任監督に据えた。独自のトレーニング期間もなく、Jリーグで指揮を執るのは初めての宮本監督だったが、9月を迎えてからチームがまとまり、韓国代表のエース格に成長したFW黄義助(ファン・ウィジョ)の得点力もあって9連勝。8位まで順位を上げた。クラブが機を逃さずに監督交代の手を打ったことが「急上昇」の決め手となった。
対照的なのが神戸だ。17年半ばに就任した吉田孝行監督の下、優勝を目指して大型補強をし、「中断前」には6位とまずまずの成績を残した。そして5月にスペイン代表のアンドレス・イニエスタの獲得を発表。イニエスタだけでなく、カタール代表DFアフメド・ヤセルらの積極補強もした。再開後は「イニエスタ人気」でホームの大半の試合が満員となり、アウェーでも入場者数増加に大きく貢献したが、成績は伸びず、18試合で5勝5分け8敗の勝ち点20で、優勝どころか「残留争い」に巻き込まれた。
9月17日に吉田監督が退任してスペイン人のフアン・マヌエル・リージョ監督を招へい。10月4日に業務ビザが発給されるまで林健太郎コーチが代行となった。しかしリージョ監督が指揮を執るようになってからも守備の混乱は解決できず、失点の多さが苦しみの要因となった。中断前の15試合で「得点23、失点17」とバランスが取れていたが、再開後は大きく崩れ、18試合で「得点19、失点33」。この数字が中断後のチームづくりの失敗を物語っている。
J2降格が決まった柏も失敗した。中断前は6勝2分け7敗で9位だったが、ACLでの不成績もあって5月12日に下平隆宏監督を解任、加藤望監督が引き継いだ。しかし再開後に4連敗。以後も負けが先行し、11月10日に加藤監督を解任して岩瀬健コーチを新監督にたてたが、時遅く、第33節に17位が確定した。
中断前と再開後、まるで「2シーズン制」のようだった今季。監督たちだけでなく、それぞれのクラブの強化担当にとっても大きな経験となったに違いない。成功も失敗もしっかり分析して、今後に生かすことが大事だ。