トランプ関税、米製造業に跳ね返る GMが北米5工場停止
【ロサンゼルス=白石武志、ニューヨーク=大塚節雄】トランプ米大統領の高関税政策が米企業に重荷として跳ね返る構図が鮮明になってきた。米ゼネラル・モーターズ(GM)は26日、北米の5工場の生産を2019年をメドに停止すると発表。素材や部品の関税引き上げで業績の先行きに不透明感が高まり、余剰な設備と人員の削減を余儀なくされた格好だ。トランプ氏の「米国第一」は堅調な米景気の不安要素に転じている。
「顧客の嗜好の変化に対応した生産能力を確保し、グローバルな労働力を変革することで将来の競争に勝つための資格を得られる」。26日に電話会見したGMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は今回のリストラが生き残りに不可欠と繰り返し強調した。
ピックアップトラックなど大型車人気を追い風に米国販売は足元で好調を保っている。だが鉄鋼とアルミニウムへの追加関税に伴って原材料費が上昇しており、7月には18年12月期の業績予想を下方修正していた。
リストラの柱は米国とカナダに約40ある工場のうち、販売が低迷するセダン・小型車の組み立てや部品製造を主に担う5拠点の生産停止。従業員は合計で約6300人に上る。雇用の米国回帰を推し進めるトランプ氏には許容できない。「米国はGMのために多くのことをやってきた。我々は強い圧力をかけている」と不満をぶちまけた。
生産をやめる工場があるのはトランプ氏が大統領選で勝った「ラストベルト(さびついた工業地帯)」を含み、20年の再選を左右する地域だ。貿易赤字縮小に向けた高関税は支持基盤である労働者層の歓心を買うためのはずだが、米企業を疲弊させる矛盾もあらわだ。
GMは電動化や自動運転などの次世代投資をにらみ、原材料費上昇で競争力が落ち、稼働率の低い工場を抱える余裕はない。米フォード・モーターも貿易摩擦の影響が18年通期に10億ドル(約1100億円)のコスト増になることなどから世界規模のリストラを検討中だ。
中国から年約29億ドルの部品や素材を購入している米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、対中制裁関税が「年間で最大3億~4億ドルのコスト上昇につながる恐れがある」と明らかにしている。
高関税は米製造業の競争力をむしばむ。米シンクタンクのタックス・ファンデーションの試算によれば、発動済みの関税措置は米国内総生産(GDP)を長期で0.12%押し下げ、賃金を0.08%、雇用を9.4万人それぞれ減らす。
一方、米鉄鋼業界には足元で恩恵が表れ、大手4社の18年7~9月期の純利益は前年同期の2.5倍と金融危機後の最高益を更新した。ニューコアは10月に米ケンタッキー州の自動車向け鋼板工場の能力増強を発表。だが、大口顧客であるGMの減産方針で早くも目算が狂いつつある。
トランプ氏の鼻息はまだ荒い。30日からアルゼンチンで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて調整中の米中首脳会談。不調に終われば、制裁関税に関し「2670億ドル分を追加で課すつもりだ」と26日の米紙インタビューで述べた。
中国からの全輸入品に制裁関税を課すことになれば、米国が被る負の影響も跳ね上がる。副作用の露呈で米国の余裕が揺らぎ始めた中でのさらなる高関税は、背中合わせの米経済変調リスクを格段に高める。