マクロン改革岐路 失業率下がらずパリで市民デモ
【パリ=白石透冴】フランスのマクロン大統領の改革が岐路にさしかかっている。2017年5月に就任してから矢継ぎ早に経済の活性化策を打ち出してきたが、目に見える成果は少ない。24日にはパリ中心部で燃料税引き上げに抗議する市民らの大規模なデモが起きた。支持率の低落傾向に拍車がかかれば、政権基盤が揺らぎかねない。
パリの観光名所であるシャンゼリゼ通りでの24日のデモは、1週間ほど前からフランス各地で続くマクロン政権への抗議活動の一環。一部が投石し、警官隊が催涙弾を撃って対応した。パリでの次回のデモは12月1日に計画されているようだ。
仏政府のグリボー報道官によると、マクロン氏は26日の閣議でパリで起きたデモを「戦争のような光景」と非難した。だが「投資家心理への悪影響を過小評価すべきでない」とも述べ、政府として何らかの対応をとっていく考えを明かした。
仏メディアは23日、マクロン氏の支持率が就任以来の最低を更新する26%に落ち込んだと報じた。史上最も不人気だといわれたオランド前大統領は就任から同じ期間を過ごした後に29%を記録したが、これを下回る。
大きな要因の一つは雇用不安だ。フランスの失業率はマクロン大統領の就任直後に9.4%だったが、18年7~9月でも9.1%の高水準。欧州連合(EU)平均の6.7%を大きく上回る。
フランスの代表的な株価指数CAC40は就任時より約9%低い。マクロン政権は18年の実質成長率の目標を2%と定めたが、消費の伸び悩みなどで仏国立統計経済研究所(INSEE)は1.6%と予測。欧州委員会はEU全体の実質成長率を2.1%と想定する。
マクロン改革の軸は企業活動の規制緩和と行財政改革による「小さな政府」志向だといわれる。
17年には労働法を改正。解雇時の罰金に上限を設け、企業が労働者を解雇しやすくすることで雇用拡大の動機づけにしようとした。先進国の法人税で最も高い水準である33.3%を25%に下げることも決定。起業手続きを容易にするための法案は議会で審議中だ。
並行して40種以上ある年金の一本化や、公務員の12万人削減という計画をたてたが、実行が遅れている。
仏国内の専門家にはマクロン改革に好意的な見方が多い。パリ政治学院のエコノミスト、ブルノ・ドクドレ氏は「景気減速は政策よりも、原油価格上昇、ユーロ圏の景気減速などが理由だ」と指摘する。パリ経済学校のフランソワ・フォンテーヌ教授も「労働法改革はおおよそ評価できる。続く失業保険改革などが成功すれば、失業率は下がっていく」と推測する。
仏政府はかつて労働者寄りの姿勢が強かった。自動車大手のルノーに代表される有力企業の大株主になり、解雇権の乱用を抑えてきた。政府による介入は外国企業の対仏投資のリスクとなり、労働市場の硬直化と高い失業率につながった。マクロン政権はこの悪循環の抜本改革を目指した。
当面、マクロン政権は東京地検特捜部によるルノー最高経営責任者(CEO)兼会長、カルロス・ゴーン容疑者逮捕への対応を迫られる。ルノーの雇用を守ることを最優先に考えるとみられる。