カナダ、メキシコが中国とのFTA検討
【ワシントン=鳳山太成】新たな北米自由貿易協定(NAFTA)のメンバーであるカナダとメキシコが中国との自由貿易協定(FTA)の検討を始めた。対米貿易への依存から抜け出すため巨大な中国市場を狙う。中国と対立するトランプ米政権は、新NAFTAに中国とのFTA締結をけん制する条項を加えた。
カナダのトルドー首相は11月中旬、シンガポールで中国の李克強(リー・クォーチャン)首相と会談し、停滞していたFTA協議の再開で一致した。トルドー氏はトランプ政権とのNAFTA再交渉を通じて、輸出の7~8割を米国に頼るリスクを改めて認識したとして、中国との貿易拡大に意欲を示していた。
カナダと中国は2016年、FTAの予備協議の開始で合意。17年に会合を重ねたが、環境や労働の問題で対立し、18年には休止状態となった。
メキシコも対中FTAに前向きだ。12月に発足するロペスオブラドール次期政権のセアデNAFTA交渉官は10月、4年の任期中に交渉を始めたい意向を表した。チリなどほかの中南米諸国が中国とのFTAで恩恵を受けており、メキシコにも利益になると期待する。
一方、米政権は両国の対中FTA締結に反対。9月末に妥結した新NAFTAであるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は「非市場経済国」とFTAを結ぶ場合に(1)交渉入りの3カ月前までに他国に伝える(2)署名の30日前までに協定全文を他国に明かす(3)他国は6カ月前の通知で離脱できる――といった条項を盛り込んだ。名指しを避けつつも事実上の「反中国条項」といわれる。
この条項についてトルドー氏は「米国の当初案はもっと厳格だった」と指摘し、主権を縛る内容でないと反論する。しかし、米国の意向は無視できない。セアデ氏は「(対中FTAを)禁止しているわけではないが、米国の国益を損なわないと米国に納得してもらうことは必要だ」と話す。
知的財産侵害や過剰な補助金、人権問題などを抱える中国との接近にはリスクを伴う。カナダのマカラム駐中国大使は「中国とはFTAの前に片付けるべき課題が多くある」と指摘する。
米中の貿易戦争が激しくなるなか、両者とも他国を味方につけようと躍起だ。トランプ政権は中国の不公正な貿易慣行に対抗するため、カナダ、メキシコだけでなく、日本や欧州連合(EU)などと対中包囲網づくりを急ぐ。一方の中国も各国との関係強化に動いている。王毅外相は10月上旬、カナダのフリーランド外相との電話協議でもFTA協議再開を求めた。
米中との距離感をどう取るかは日本にも共通する課題だ。ロス米商務長官は今後始まる日本やEUとの貿易交渉でも「反中条項」を盛り込むことに意欲的だ。日本は中国を含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結をめざしている。アメリカン・エンタープライズ研究所のデレク・シザーズ氏は「単に(米国が対中FTAを)精査して離脱を考えるにすぎない」と指摘。たとえ日本が同じ条項を取り入れてもRCEPには影響が及ばないとの見方を示す。