解体的出直し迫られる西武 ピンチはチャンス
編集委員 篠山正幸
エース菊池雄星がメジャーへの夢を追って旅立ち、打点王・浅村栄斗が去り、日本代表の捕手でもあった炭谷銀仁朗も抜ける西武。10年ぶりのリーグ優勝の喜びもつかの間、チーム解体の危機にひんしているが、悲観すべきことばかりとも限らない。
■痛い浅村と炭谷の移籍
よく選手が出ていくチームだ。1993年のフリーエージェント(FA)制度導入以来、ヤクルトから獲得して2008年の優勝の立役者の一人となった石井一久のように、西武も「移籍の自由」の恩恵を受けたこともあった。だが、これまでの出入りをみると、圧倒的に流出した戦力の方が大きいのではないだろうか。
94年オフの工藤公康(ダイエーへ)、石毛宏典(同)、96年オフの清原和博(巨人へ)、07年オフの和田一浩(中日へ)、13年オフの涌井秀章(ロッテへ)、片岡治大(巨人へ)、16年オフの岸孝之(楽天へ)と主力級の人材が、他球団へ移籍してきた。
03年オフの松井稼頭央、12年オフの中島裕之(宏之)のように、メジャーという夢に向かっての移籍であれば、引き留めようもなく、球団やファンとしても、どうにかあきらめがつく。一方、国内での移籍は条件次第では引き留められたかも、と思われる面もあるだけに、やるせないものがある。
もちろん、FA権は選手が勝ち取った権利であり、その行使について、感情的に見てはいけない。FA権の取得条件を満たしたということはすなわち、一定年数、チームに貢献したとみなされたわけで、球団としても功労者として扱うべき存在となる。移籍したい、といわれたら「これまでご苦労さん」といって、送り出さねばならない。そういう筋合いの話だ。
浅村、炭谷の移籍は西武にとって痛い。特に浅村の穴は埋めがたい。勝負強い3番がいることで、前後の打者も生きたという面があり、来季は打線全体のバランスが損なわれる恐れもある。
せっかくつくり上げた最強打線が瓦解の危機にある。その現実を直視しないわけにはいかないが、これを奇貨として、チームの進化に結びつける手がないわけではないだろう。
日本ハムや広島もFA移籍では、どちらかというと他球団への人材供給源となってきたきらいがあるが、それでも次から次へと有望株が出てきて、穴を埋めた。
日本ハムなどは主力が抜けて、もうしばらく勝てないかも、という年に案外勝つという傾向がある。
小笠原道大選手がFAで巨人に移籍した07年に優勝。こちらはポスティング(入札)制度による移籍ではあったが、エースのダルビッシュ有がレンジャーズに移籍した12年も優勝した。
■見逃せない選手育成の効能
野球は1人でやるものではないから、1人が抜けても、思ったほど影響はないということなのかもしれないが、見逃せないのはレギュラーのポジションが空くことによる選手育成の効能だ。
選手にとって何が肥やしになるかといえば、実戦に勝るものはない。練習の10球より試合の1球。特に1軍の実戦の体験は何ものにも代えがたい。
誰かが抜けたら、それだけ、新しい人が登板したり、打席に立ったりする機会ができる。「穴」はこれからのしあがろうとする者にとっては大きなチャンス。日本ハムで起きた現象はそういうチームの新陳代謝の原理を示しているようだ。
西武の場合も、浅村が今季こなした640打席という数字が、まるまる誰かの肥やしになるといえるだろう。
今季の優勝は08年、中島、片岡、栗山巧、中村剛也といった「ヤングレオ」で日本一となったとき以来の優勝だった。主力が若く、何回でも優勝できそうだった西武が苦しんできたことは、人材流出の穴を埋めることがいかに困難だったか、を示している。浅村の代わりもすぐに出てくるわけではないだろうが、この試練をチームのもう一段のステップアップのための試練ととらえて、前に進むのみだ。