「中国貿易なお不公正」 USTR、首脳会談前に圧力
【ワシントン=河浪武史】米通商代表部(USTR)は20日、中国の貿易・投資政策を巡る報告書を発表し、制裁関税の発動後も「技術移転など中国の不公正な行動は根本的に変わっていない」と厳しく批判した。米中両国は11月末にも首脳会談を開く予定だが、とりわけハイテク分野の知的財産権問題で、米当局は中国への圧力を一段と強めている。
トランプ政権は7月、中国の知財侵害を制裁するため「通商法301条」に基づいて中国製品に追加関税を発動した。USTRは制裁の判断基準となる報告書を3月にまとめたが、今回公表したのはその改訂版となる。改訂版では中国の不公正慣行を(1)サイバー攻撃(2)技術移転の強要(3)差別的な事業認可(4)米国での企業買収――に分類し、具体例を挙げて批判した。
中国のサイバー攻撃を巡っては「中国人ハッカーによる企業秘密の窃盗事件が相次いでいる」と改めて指弾した。中国は国策に沿って航空機エンジンの国内開発を急いでいると指摘し、その主要技術を米企業へのサイバー攻撃で盗もうとしたなどと批判した。
中国は米国の批判を受けて、外資規制の緩和策を打ち出している。ただ、USTRは電気自動車など「新エネルギー車」の新規制案を取り上げて「中国勢との共同事業でなければ、新工場の建設にあたって不利な条件が課される」と指摘。技術移転の強要は変わっていないと改めて批判した。
中国は先端技術の獲得を目的に、米企業への買収を仕掛けているとも指摘した。中国企業による対米直接投資は大幅に減少しているが、USTRは「ベンチャーキャピタルを通じた中国の投資が増えており、中国政府は人工知能(AI)や生物化学分野などに焦点を当てている」と指摘。米ベンチャー企業から中国に最新技術が流出していると懸念した。
米中は11月30日~12月1日にアルゼンチンで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて、トランプ大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席が会談する予定だ。両国は関税を課し合う貿易戦争の打開策を探るが、USTRの新たな報告書は、中国に一段の譲歩を迫るメッセージとなる。
今回の報告書では対中制裁の拡大など追加策には踏み込んでいない。ただ、トランプ氏は中国との協議が不調に終われば制裁関税の対象を広げるとも主張しており、米中首脳会談は貿易問題で緊迫しそうだ。
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