クライミング、東京五輪へ必要な「スピード」強化
欧州勢に後れ、成果も徐々に
スポーツクライミングのアジア選手権が11月上旬、鳥取県倉吉市で行われた。5日間の日程の最終日に実施されたのが、2020年東京五輪の種目に採用されている「複合」だ。女子は第一人者の野口啓代が優勝し、2位に野中生萌、3位に伊藤ふたばと日本選手が表彰台を独占。男子も楢崎明智(いずれもTEAM au)が初優勝を飾るなど、層の厚さをみせつけた。だが、9月の世界選手権では複合で男女ともにメダルなし。世界で勝つために、選手はさらなるレベルアップを求めている。
複合はほぼ垂直の15メートルの壁を1対1で登って速さを競うスピード、設定された4つの課題で登れた回数を競うボルダリング、到達高度を争うリードの3種目を1日で行う。それぞれの順位をかけ算してポイントが少ない選手が上位にくる仕組みで、問われるのは総合力。メダルを狙うのであれば、どれかで1位を取ることと苦手種目をつくらないことが重要になる。
日本はもともとボルダリングとリードで世界トップレベル。今季のワールドカップ(W杯)国別ランキングではボルダリングが1位、リードは2位。世界選手権でもボルダリングで男子の原田海(日新火災)が優勝し、女子も野口が銀メダルを獲得した。2008年から国民体育大会の山岳競技でこの2種目が実施されていて、「1人の選手が2種目する素地があったことが今につながっている」と日本代表の安井博志ヘッドコーチは指摘する。
■五輪での出遅れは致命傷に
一方、日本にとって鬼門といえるのがスピードだった。今季の国別ランキングは14位。欧州勢に後れを取っているのは国内に練習できる壁が少なく、強化が進んでいなかったからだ。五輪を考えれば避けては通れず、最初に行われるこの種目で出遅れると致命傷になる。それぞれの選手は海外の大会を転戦しながら試行錯誤を続けているが、徐々に成果も出てきた。
アジア選手権では野中が女子の日本記録を更新した。複合に出場した6選手の中でトップの8秒574。ポイントはスタート直後の一番左にあるホールドを使わず、ショートカットして直線的に上がる登り方にあった。もともと日本人の中ではスピードを得意とする選手だが、男子の楢崎智亜(TEAM au)が8月のジャカルタ・アジア大会で披露した動きを参考に新たな登り方に挑戦。「単純に数手少ないので速い。体に染み込めばもっと(タイムを)削れる」。取り組み始めてまだ日が浅いが、早速好記録が生まれて手応えをつかんだ。
安井ヘッドコーチによれば、ホールドを飛ばすには「(体を引き上げる)体幹と腕の強さが必要」。女子のなかでも筋力と柔軟性が高い野中だからこそまねできるという。ホールドに飛び移るボルダリングの動きを生かせる部分もあり、本人も「8秒5台を出していればスピードのW杯で決勝も狙える。その感覚はある」と威勢がいい。
■野口「まだまだトレーニング必要」
アジア大会の複合で金メダルを獲得している野口も苦手種目で自己記録を更新している。10秒5の自己記録の更新を掲げて臨んだアジア選手権の複合では10秒303と持ちタイムを縮めた。4位に入って出遅れを最小限にとどめたことが、得意のボルダリングとリードにつながり、優勝をつかむ要因となった。
とはいえ、野中とは大きな開きがあり、世界と比較しても「まだまだトレーニングが必要」。年内には茨城県龍ケ崎市にある実家の車庫にスピード専用の壁が2レーン完成するといい、今後は弱点の克服に向けて本腰を入れる予定だ。「今まではどうしても環境がないという理由でトレーニングができず、他国に後れを取っていた。これからは一番近いところで練習ができるので、環境面でのストレスはなくなると思う」
東京五輪で新競技となるスポーツクライミングはメダルの期待が高い。19年夏には東京都八王子市で世界選手権も行われ、代表争いも熱を帯びてくる。「もちろん最終目標は東京。(スピードで)順位が1つでも上がれば、金メダルに近づくと思っているので頑張ってたくさん登りたい」と野口。野中も「年内に(海外の)スピードの選手と練習できたらいいなと考えている」と語る。日本勢にとって「スピード」強化はそのまま、メダルへの近道となる。
(渡辺岳史)