大阪の旧真田山陸軍墓地 台風で荒廃進む、管理に課題
西南戦争から太平洋戦争までの旧陸軍の戦死者を埋葬した大阪市天王寺区の「旧真田山陸軍墓地」の荒廃が深刻化している。風雨で墓石が傷んでいたところに、9月に台風21号が襲い、墓の倒壊や倒木などの被害が相次いだ。所有者の国と管理する市の役割分担が不明確なため、補修や清掃が滞っている。市は国に管理と国立墓地としての整備を求めている。(加藤彰介)
10月下旬、JR玉造駅(天王寺区)に近い住宅街にある旧真田山陸軍墓地を訪れた。5000基以上ある墓のほとんどで、墓碑がひび割れたり変色したりしており、一部は斜めに傾いていた。表面が剥離し、文字が消えている墓もある。
「年間50基ペースで補修しているが劣化のスピードに追いつかない。老木も多いため、台風が来るとすぐ枝折れしてしまう」。清掃など日常の管理活動にあたる公益財団法人「真田山陸軍墓地維持会」の学芸員、永田綾奈さん(28)は強調する。墓碑の多くは耐久性の低い砂岩製。風化が進みやすく、約7割がひび割れなどで補修の必要があるという。
剥離した墓碑の補修には特殊なコーティングが必要。1基あたり約5万円かかり、全てを直すには億単位の費用を要する。「寄付金では限界がある」(永田さん)
同墓地は国内初の陸軍埋葬地として1871年に開設され、広さは約1万5090平方メートルと全国最大規模。国が市と無償貸付契約を結んだ1946年以降、市と維持会が中心となり、定期的に清掃や除草を続けている。ただ、大規模な補修や老朽化対策を国と市のどちらが担うのかは明確な取り決めがない。
約50基が倒壊するなどした9月の台風21号の被害を受け、10月中旬には地域住民らボランティア約400人が集まり、倒れた墓碑を起こしたり、折れた枝を回収したりした。
吉村洋文市長は、墓石の補修や国立墓地としての再整備を求める要望書を安倍晋三首相宛てに提出した。一方で、参道となっている砂利道の舗装、植樹、電灯の整備などの費用を2019年度予算に計上する方針。
文化財の保存や修復に詳しい京都造形芸術大の伊達仁美教授(文化財保存)は「維持団体や地元自治体だけでは人手や資金に限りがある。陸軍墓地は戦争や平和を考える上で重要な場所であり、若い世代に歴史を継承する意味でも整備は重要だ」と話している。
■陸軍墓地の管理 全国で同じ悩み、広島や福岡も
国が戦死者を埋葬した墓地は全国に80カ所以上あるとされる。日々の清掃や管理は地域のボランティアや遺族、維持団体に任されているケースが多い。時代とともに遺族の高齢化や担い手不足に拍車がかかり、墓石の老朽化対策と維持管理のあり方が全国で課題になっている。
福岡市の「福岡陸軍墓地」では、2005年3月に震度6弱を記録した福岡県西方沖地震で墓碑が横ずれしたり、ひび割れたりしたほか、内部の骨つぼが散乱した。地元住民らが改修のための委員会を設立。工事費などは遺族などからの寄付金で賄ったが、保全団体の担当者は「本来は国と自治体が協力して改修してほしかった」と話す。
約3500基が並ぶ広島市の「比治山陸軍墓地」でも一部の墓石が割れるなどの劣化がみられるという。市の担当者は「墓石の管理は責任が不明確。将来、大きな災害が起きて大規模な補修が必要になった際はどうすべきか分からない」と懸念する。