日ロ、56年宣言を基礎に平和条約交渉加速 首脳会談
【シンガポール=田島如生】安倍晋三首相は14日、ロシアのプーチン大統領と約1時間半会談した。平和条約締結後に北方四島のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させることで合意した。首相は年明けにもロシアを訪問する意向だ。会談終了後、記者団に「今回の合意のうえに平和条約交渉を仕上げていく決意だ」と語った。
56年宣言を基礎とすることについて、日本政府には4島返還の前提を崩さず歯舞群島と色丹島の2島の引き渡しを先行させる狙いがあるとみられる。
首相は記者団に国後、択捉の2島の帰属問題には触れず「信頼関係の積み重ねのうえに領土問題を解決して平和条約を締結する」と強調。「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという強い意志を大統領と完全に共有した」と語った。
両首脳の会談は今回で23回目。プーチン氏が9月にウラジオストクで開いた東方経済フォーラムの全体会合で「何の事前条件も付けずに年末までに平和条約を締結しよう」と提案してから初めての正式な会談だ。後半の40分は通訳を交え2人だけで会談した。ロシアのペスコフ大統領報道官は終了後、記者団に「1956年の宣言に基づき平和条約の交渉プロセスを積極化することで合意した」と述べた。
プーチン氏は今月30日からアルゼンチンで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に出席する機会にも首相と会談する意向を示した。
56年宣言は「歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことに同意する」とし「日本とソ連との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」と明記している。日本とロシアの前身のソ連が批准した唯一の法的拘束力のある文書だ。
プーチン氏は2000年の大統領就任以来、一貫して56年宣言の効力を主張してきた。無条件の平和条約締結を呼びかけた9月のプーチン氏の提案を領土問題の棚上げだと警戒する声もあったが、首相は「平和条約締結への意欲の表れ」と一定の評価をしていた。
会談では北方領土での共同経済活動に関し、事業の早期実施に向けた作業加速でも合意。北朝鮮の非核化に向けて今後も緊密に連携していくことも確認した。
首相は14~15日にシンガポールで東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席した後、16日にオーストラリアで8月に就任したモリソン首相と初会談に臨む。17~18日にはパプアニューギニアでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加し、18日に帰国する予定だ。