大谷が新人王 一流の常識覆した二刀流に圧倒的支持
ア・リーグ
今年9月末。シーズン最終盤のメジャーを取材するなかで、新人王を巡る議論も見聞きしたが、佐々木氏やイチローが受賞したときのような「日本球界から来た選手は新人王の資格があるのか」という「そもそも論」は大谷についてはほとんど聞かれなかった。
野茂氏の渡米以来、日本の野球のレベルの高さが認識されるようになり、同じ土俵で新人王を争うことに無理があるのでは、という意見もかつてはあった。
大谷の場合、24歳という年齢がいかにも新人らしく、今季の年俸もメジャー最低保証の54万5千ドル(約6200万円)とかわいげのある額であったことが、ルーキーとみなすことへの抵抗を薄めた、とも想像される。
投打二刀流の評価が注目されたが、最終的には野球というスポーツの魅力を再発見させた点が、圧倒的な得票数につながったのではないか。投打は両立できないことを当然の前提としてきたトッププロの世界の常識を覆した。
目を見開かされた関係者の一人が、マイク・ソーシア・エンゼルス前監督で「制限なしにやる野球はすばらしいスポーツだ」と話している。先入観や決めつけを排して向き合えば、野球はもっと楽しくなる、ということを大谷は示した。同時にソーシア前監督は「(二刀流は)特別な才能が必要で、誰にでもできることとは思わない」と付け加えてもいる。
チームへの貢献度という要素を考えると、大谷には不利な面があった。最終候補に残ったミゲル・アンドゥハー(23)、グレイバー・トーレス(21)の両内野手が所属するヤンキースがア・リーグ東地区2位の好成績を挙げてポストシーズンに進出したのに対し、エンゼルスは借金2つで同西地区4位だった。
そうした心証面でのハンディを補ってあまりあるほどのインパクトが二刀流にはあった、ということになるだろう。
3月のオープン戦。大谷は投打にさえず、苦しんだ。しかし、打撃では右足のステップを封じてコンパクト化し、メジャーの速くて動く球に対応した。「適応していく姿をみるのも楽しかった」とソーシア前監督。
超大物新人、二刀流に注がれる好奇の目とプレッシャーをものともせず、常に前向きで野球を楽しむ姿が投票権を持つ記者を含め、多くの共感を呼んだものとも思われる。
(編集委員 篠山正幸)