インドで政府と中銀が激しく対立、総裁辞任説も浮上
【ムンバイ=早川麗、ニューデリー=黒沼勇史】インドで政府と中央銀行が激しく対立している。信用危機が懸念されるノンバンクへの対応を巡り、政府が中銀に異例の指示を出し、中銀は独立性が損なわれると反発。ジャイトリー財務相は不良債権の増加で中銀を非難し、パテル中銀総裁の辞任観測まで浮上した。来春に総選挙を控えて苦戦する政府与党の政治的な思惑も透けて見える。
舌戦が過熱したきっかけは、インド準備銀行(中銀)のアチャリャ副総裁の10月26日の講演での発言だ。同氏は中銀の独立性が脅かされると「悲惨な結果になる」と警告した。地元紙によれば、政府から中銀に対してノンバンク関連の流動性を高めるよう指示する書簡を送り、副総裁はこれに強く警戒感を示したようだ。
中銀は政府からの独立性を認められた組織だが、インド準備銀行法には公共の利益が損なわれる場合には政府の介入を認める「準備銀法第7条」があり、政府がこの条項を盾に介入を始めたとされる。政府はこれまで第7条を行使したことはないという。
一方、政府は公然と中銀を批判する。ジャイトリー財務相は10月30日、「銀行が見境なく貸し出すなか、規制当局である中銀は何をしていたのか」と述べ、中銀の無作為が不良債権を増やしたと批判した。インドの商業銀行が抱える不良債権は直近で8兆7千億ルピー(約13兆円)と、2014年のモディ政権発足以降で3倍以上に増えている。
10月31日には中銀のパテル総裁の辞任説も浮上。財務省は同日の声明で「中銀の独立性は不可欠で、政府はそれを尊重する」とし、対立の沈静化を図ったが火種はくすぶっている。
背景にあるのは、総選挙を来年4~5月に控えて、議席数の減少が見込まれる政府与党側で高まる危機感だ。野党はモディ政権下での不良債権の増加を、政権糾弾の目玉の一つとしており、政権側は防戦に必死だ。
与党インド人民党(BJP)の支持母体、「民族義勇団(RSS)」の経済部門トップ、アシュワニ・マハジャン氏は1日、日本経済新聞の取材に対し「欧米では経済の安定のため中銀の独立性が必要だが、インドでは成長にも資する中銀が必要だ」と指摘。「政府と足並みをそろえられず公然と政府批判をするなら(総裁や副総裁は)辞めるべきだ」と強調した。
RSSが中銀を批判するのは今回が初めてではない。リーマン・ショックを予言したことでも知られるラジャン前総裁は16年、続投意欲があったにもかかわらず、RSSの再任拒否を受けてモディ政権が1期3年の任期満了をもって退任させた。その後任であるパテル現総裁も辞任に追い込まれれば、経済重視を掲げるモディ政権の看板に深い傷を負わせることになりそうだ。