スーパーラグビー大会形式、NZ協会CEO「11月決断」
スティーブ・チュー氏に聞く
2019年、日本で開催されるラグビーのワールドカップ(W杯)でニュージーランド代表、通称「オールブラックス」は3連覇、4度目の優勝を狙っている。10年近く世界ランキング1位の座にあり続ける絶対王者のブランドを世界にアピールするやり手が、ニュージーランド・ラグビー協会のスティーブ・チュー最高経営責任者(CEO)だ。オーストラリア代表との定期戦ブレディスローカップ(10月27日)と、日本代表戦(11月3日)のため来日したチュー氏にその戦略などを聞いた。
――ニュージーランドのラグビーにとって、日本はどれくらい重要か。
「日本とはとても大切な関係を持っている。W杯と東京五輪がやってくるので成長市場とみている。オールブラックスのホームページの日本語版も今年始めた。中期計画書でも日本に言及している。日本は我々が注目する市場だ」
――外国の中で日本市場が最優先なのか。米国もターゲットにしている。
「確かに。でも日本はアジア・太平洋地域にあって重要で、日本には確立されたラグビーの伝統がある。大学でラグビーがプレーされ、トップリーグがある」
――でも最も人気があるスポーツではない。
「必ずしも最も人気があるスポーツである必要はない。我々にとって大切なのはゲームが日本で成長して、19年はW杯があってラグビーに大きな焦点が当たる。その次の年には7人制ラグビーが五輪で大切なパートを占める。だから大きな機会がある」
――どうやってオールブラックスのファンを増やすか。日本代表の方が人気があると思う。
「そうあるべきだと思う。日本の人々にオールブラックスをナンバーワンのチームとして選んでほしいわけではない。ナンバー2のチームとしてほしい。オールブラックスのライセンス商品の売り上げは、海外ではフランスに次いで日本が2番目か3番目だ。強いファンの基盤があると思う」
――それが今回日本にやってきた理由か。それともチームに19年W杯に向けた準備をさせるためか。
「日本を市場として認識していて、それにフォーカスしたかった。市場にプレゼンスを示さなければ、そこで成長させられない。だから時々、日本でプレーしたい。またW杯のちょうど1年前に2週間を日本で過ごすことはチームにとっていいことだ。そして日本代表は強い」
――本当にそう思うか。
「前回のW杯で南アフリカに勝った。だからどんなチームも、あるチームに対して何かが保証されていると考えることはできない。その後の日本代表の成長もいいと思う。ラグビーの統括団体ワールドラグビー(WR)が、強豪のティア1の国と(その下の日本のような)ティア2の国がもっと対戦するように、20年から新しいテストマッチのスケジュールをスタートさせる。WRのビル・ボーモント会長が言うのは、我々がもっとティア2の国と戦うことが大切だということ。なぜなら我々が頻繁にプレーしない限り、その国は我々と同じレベルには成長しないから。だから、11月3日の試合は日本にとってもとても大切になる」
――19年W杯のニュージーランド代表の試合日程についてはどう思うか。試合と試合の間に3日間しか休みがないところがある。
「なぜなら前回のW杯ではティア2の国の休みが短かった。スケジュールは完璧につくるのがとても難しい。だから、11年W杯が終わってから、ティア1の国が短い休みで試合をする重荷をシェアすべきという議論を始めた。ドローなんだから短い休みもOKだ。その準備をしなければならない」
――日本のスポンサーとの関係は。
「日本水産とは長い歴史がある。小さな関係だけれど、とても目立つ関係だ。彼らはニュージーランドの大学ラグビーも支援している。最近、三井不動産と契約した。それは新しい商業パートナーシップで、W杯前にキャンプ地の千葉県柏市周辺で行う。でもそれがさらに未来につながる関係になることを期待している。国際的な企業で我々をサポートしてくれるところとも関係を持っている。ドイツのアディダス、米国のAIG、スイスのチュードルなど。米アマゾン・ドット・コムとも話をしている」
――選手がオールブラックスでプレーするためには、ニュージーランド国内でプレーしないといけないというルールについて。そのルールを緩める考えはあるか。特にトップリーグに来る選手に関して。
「今はない。でもレビューは続ける。いまのルールは世界のすべての選手に適用されている。ニュージーランドでプレーしなければ選抜しない。それを緩めるプランはないが、世界は変わるので時々レビューをしないといけない。でもそれはすぐにではない」
――ニュージーランドでも多くの選手が若くして欧州のクラブと契約する問題があると聞く。それを止める方策はあるか。
「ノーだ。行き先はフランスと英国と日本のクラブが最も多い。そして行く選手がどんどん若くなっているのは事実だ。WRの中で、海外でプレーする選手の数についてコントロールするメカニズムについて話をしている。なぜなら、あまりにも海外の選手が多いと、それはたとえばフランスのリーグのためによくないから。日本もそうだと思う」
「だが世界は自由市場だ。できることはといえば、ニュージーランドで最善の環境を提供することだ。いいコーチといい競争があって、我々のプレーヤーがオールブラックスになりたがって、彼らがいたいだけオールブラックスに残れる。だから海外にいる選手を選抜しないルールは、チーム戦略のとても重要な部分だ。でも我々はお金と競争はできない」
「もし選手がもっとお金がほしいというだけなら、彼らは国を離れる。だがニュージーランドはほかのどこの国からも遠い。だからラグビー選手だけではなく、多くの若者が海外にいって働く。なぜなら世界を探索するのが好きだから。そして違う文化に触れて、違う国で働くことが好きだから。ラグビーに限ったことではない」
――ニュージーランドでのラグビーの人気はどうか。サッカー人気が上がっているか。
「そうではあるが、ラグビーの価値は下がっていない。我々はニュージーランド社会の中で特別な地位を占めている。でもそれを当然のこととも思っていない。だから今の地位を維持するために努力しないといけない。サッカーだけでなく、今の若い人たちには多くの選択肢がある。たくさんの若者がエクストリームスポーツをやっている。だからラグビーを魅力的にするためにかなり努力しないといけない」
――そんな世界でどう若者にオールブラックスの価値をアピールするか。
「最近発表された調査がある。ニュージーランド人が最も信頼できるものは何かというもので、17年はオールブラックスが1位で、今年は2位だった。国で2番目に信頼されているブランドなんだ。それが助けになると思う。若者で我々のジャージーを着ている人は、ラグビーとオールブラックスと国を宣伝していることを意識している」
――常勝オールブラックスの選手たちには負けられないというプレッシャーがあるのではないか。
「我々は負けることが嫌いなんだ。だが負けることもある。必ず勝つことは不可能だ。しかし我々には誇らしい勝利の歴史がある。過去のテストマッチの勝率は75%以上。最近10年間は90%台だ。それは守るに値する大切なレガシーだ。選手たちはそれを意識している。選手がしようとしているのは、プレッシャーをポジティブなものに変えることだ」
――20年以降のスーパーラグビー(SR)について再構築の計画を練っていると聞いているが、どんな選択肢があるのか。
「いろんな選択肢があり、まだ検討中だ。19年半ばまでに、この大会の放映権を放送権者に売らないといけない契約があるから、たぶんこの11月中に決断しないといけないだろう。(WRの本拠地の)ダブリンで11月第3週に会合がある。でも、新年がくるまで何も発表はしない。それまで決まらないかもしれないから。物事は変わるし。一つの選択肢はサンウルブズに残ってもらって続けること。それがニュージーランドが望んでいるものだ」
――それは今年と同じ15というチーム数でか。
「それは今後決めないといけない。ニュージーランドと南アと豪州とアルゼンチンのチームがいる。それぞれ違った背景と環境にあるから。ニュージーランドから(今と同じ)5チームが参加というのはイエスだ。でもまだ議論している」
――拡張する計画も議論されていて、米国のチームが参加する案だと聞く。
「いろんな選択肢を渉猟している。でも前回(16年に18チームに)拡張したときは難しかった。戦えないチームが出た。どんな新しいチームもサンウルブズも、大会に新しい商業的価値をもたらすことを示す必要がある。そして結果を出せるパフォーマンスプログラムを持つ必要がある」
――サンウルブズのこれまでの貢献はどう思うか。
「今までのところか? グッドだ。最初は少し成長が遅かったが、必要なコーチとタレントが出てきて、この2年間は戦えている。でもまだやることがある。また東京にいいファンの基盤を確立した。ニュージーランドの観点からいうと、サンウルブズが残ることに心強さを感じている。でもサンウルブズはすべての国を納得させないといけない。十分強いということと、商業的に魅力があるということを」
――17年11月にWRで23年W杯の開催地を選ぶ投票があり、フランスが勝った。このとき、日本は南アではなくてフランスに入れた。裏切られたと感じたか。
「ノー。それぞれの国がそれぞれの決断をする、それがデモクラシーだ。SRにサンウルブズを残すかどうかの決断に、ニュージーランドの観点からはそれは影響しない。今まで議論した中で、日本はSRを成長させる重要な部分だとみている。SRにおけるプレゼンスはポジティブなものだ、サンウルブズが商業的に競争できて、大会に貢献できるならば」
――南半球の代表チームの対抗戦「ラグビーチャンピオンシップ」への日本の参加の条件は。
「日本がそこで勝てるということ。最も価値のある大会だから、日本であろうとフィジーであろうとサモアであろうと米国であろうとカナダであろうと、新しく参加する国は我々を確信させないといけない。大会に競争的価値をもたらせると。だがWRでテストマッチのスケジュール見直しの議論があるので、それを待って、どうなるかみないといけない」
――もし日本が19年W杯で8強に入ったら?
「それはよいシグナルになると思う。そう思わないかい?」
――その結果はラグビーチャンピオンシップのすべての利害関係者を説得するのに十分だろうか。
「今、私がその決断を下すことはできない。だが人々は日本が15年W杯で南アに勝ったことを記憶している。それが世界へのとても重要なシグナルになった。ただ、それがただの1試合ではなく、一貫したレベルのパフォーマンスであることをすべての人に確信させないといけない。欧州の6カ国対抗では(新しく参加した)イタリアが戦えるようになるのにとても長い時間がかかった。我々にとっても日本にとっても、日本を参加させてラグビーチャンピオンシップがそうなるのはよくない」
――ニュージーランド・ラグビー協会では「スコアボード」といって、協会の仕事ぶりを毎年100点満点で採点している。これは何のためか。
「17年のスコアは82点だったと思う。なぜなら、我々はいろんなことへの責任があるから。5歳の男の子の最初のラグビー体験から、W杯で戦う選手まで。レフェリーもコーチも育てないといけない。ゲームが安全にプレーされるようにしないといけない。相手に敬意をもって、差別をしないマナーでプレーされないといけない」
「その1年がどんな1年だったかを決めるためには、いろんなことが合わさってバランスの取れた目標を書く。そして強調すべきことを我々の目の前にピンで留めるように示す。19年はW杯に優勝すれば高得点とか、今年は7人制W杯の優勝で高得点とか、年ごとに変えている」
「でもこれが組織にいるすべての人が、我々が何を達成しようとしているのかを知るとても簡単な方法だ。すべての従業員の給料の10%が、その得点によって変動する。10%のうちの6割が得点によって、残りの4割は個人の目標を達成できたかによって変わる。もちろんCEOは10%よりもっと大きな割合だけどね」
――今年、神戸製鋼に入った元オールブラックスのダン・カーターから聞いた話だが、いつもあなたが彼に会うと、彼の足を蹴って「お前の足が地に着いているのか確認しているんだ」と言うのは本当か。
「本当だ。なぜなら彼をずっと長い間知っているから。私がクルセダーズのCEOで彼がそこへに来たとき、18歳か19歳だった。彼はとてもいいラグビー選手になるだろうと思ったが、とてもいい人間であることも思い起こさせたかった。彼は我々が育てた最初のスーパースターだから。いまだにそうだけれど。だから彼はそれをしばしば私のキックで思い出す必要がある」
――つまり傲慢になるなよ、と。
「そう、頭を低くしろよと。でもよい方法だよ」
――軽く蹴るのか。
「いや、きつく蹴るんだ」
(聞き手は摂待卓)