出光・昭シェル、統合新会社「対等」に苦心
2019年4月に経営統合する出光興産と昭和シェル石油は16日、統合新会社の社長に出光の木藤俊一社長(62)が就くと発表した。統合に反対してきた出光創業家も取締役を出す。両社の「対等」な関係や、創業家との「融和」を人事で演出する船出となった。市場環境は厳しく、どこまで迅速に統合成果につなげていけるかが問われる。
「昭シェルと早くから社員の交流を始めており、ロケットスタートを切れる」。統合会社の社長に就く出光の木藤社長は都内で会見し、自信をみせた。両社は昭シェル株1株に対し出光株0.41株を割り当て、19年4月1日付で出光が昭シェルを子会社にする。登記上の社名は「出光興産」とし、事業上は通称の「出光昭和シェル」を使う。
16日発表した新たな経営体制では、出光の月岡隆会長(67)が代表権のある会長に就く。昭シェルの亀岡剛社長(61)は代表権のある副会長に就く。代表取締役を出光と昭シェルから2人ずつ出すなど、「対等な関係」(幹部)に配慮した。会長人事を巡っても、直前まで調整が難航した。
船出から微妙なバランスの上に「対等」を演出した人事は、新会社のかじ取りの難しさを思わせる。創業家の扱いをめぐっても不安が残る。
取締役に創業家で名誉会長の出光昭介氏の長男、正和氏と顧問弁護士が入る。創業家側は新会社に取締役2人を入れることを条件に経営統合に賛成していた。創業家は06年の株式上場以来、「君臨すれど統治せず」との姿勢を貫いてきたが、再び経営に関与する。
創業家が取締役に入る背景には、出光経営陣に対する不信がある。17年に出光側が1200億円の公募増資に踏み切ったことで、創業家の出光株の持ち株比率は33.92%から約26%に低下して拒否権を失ったためだ。
経営統合で創業家の持ち株は20%程度に下がる見通し。出光が取得した自己株式の消却などで比率を30%程度に高める約束があり、創業家は出光ブランドを残すことなどを含め約束が守られるかを監視するようだ。
木藤社長は創業家に「一定の影響力がある」としながらも、「統合は間違っていないと理解を得ており、一緒に経営してさらに良い会社にしていきたい」と強調する。
両社が15年に経営統合を発表してから3年。反対する創業家との対立で時間を費やし、統合で17年に誕生したJXTGホールディングスに先行された。そのJXTGは10月に給油所のブランド統合を始めるなど一気に動く。当面はブランドを併存させる出光と昭シェルの出遅れは否めない。
巻き返しを図る出光・昭シェルは統合により、21年度に600億円の収益改善を目指す。従来の500億円から100億円を上乗せした。共同調達によるコスト削減や出荷基地の統廃合などの取り組みを積み上げた。
21年度までの3年で計5000億円以上の純利益を稼ぐ計画も掲げる。それを元手に計5000億円を投資する。高機能材や再生可能エネルギーなどに1200億円を投じ、石油事業に頼る収益体質を改善する。
石油元売り業界は2強体制になるが、ガソリン需要の減少で逆風が吹く。再生エネなどによる新たな成長を描くことが不可欠だ。「対等」や「融和」に軸足を置くあまり経営のスピードが犠牲になれば、成長戦略に支障が出かねない。
(栗本優)