スポーツファン向けグッズ、日本も市場拡大へ
編集委員 北川和徳
ニッチな市場と思っていたのだが、スポーツチームやリーグの収入源としてファン向けライセンス商品の売り上げは軽視できない規模になっている。広島東洋カープのレプリカユニホームやTシャツを中心にした2017年のグッズ販売は54億円に達したという。日本でもこれから成長しそうなこのビジネスに関して、興味深いニュースがあった。
■米大手がソフトバンクホークスと契約
福岡ソフトバンクホークスがスポーツファン向けグッズを専門に扱う米ファナティクス社(フロリダ州)の日本法人と包括的パートナーシップ契約を結んだ。19年3月からホークスのグッズは同社が企画して独占的に提供、球団の通販サイトや店舗も同社が運営する。ホークスの後藤芳光オーナー代行は「よりいっそうの驚きと楽しさにあふれたバラエティー豊かなオリジナルグッズを開発し、ファンの皆様へとお届けできるようになります」とのコメントを発表した。
以前、コラム「チームNIPPON大変革」でも紹介したが、ファナティクス社はMLB(米大リーグ機構)やNFL(米プロフットボールリーグ)など米国のプロスポーツを中心に世界で300以上のチーム、リーグと契約する、スポーツ・ライセンス商品の製造・販売会社だ。チームやリーグの公式オンラインショップの運営なども担当し、ネット通販を中心に年間20億ドル(約2250億円)以上を売り上げる。
米国のスポーツファン向けグッズ市場を急拡大したその理由は、多彩で機動的な商品展開とスピードにある。チームの優勝や記録の達成、人気選手の引退、有望新人の入団など、ファンの記憶に残る出来事があればすぐに新たな企画グッズをサイトにアップし、注文から数日で届ける。製造部門から物流倉庫まで自前で持つからこそ可能なのだという。
同社は欧州やアジアでも市場開拓を目指し、サッカーのマンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリードとも契約。17年夏にはソフトバンクグループが10億ドルを出資したことで話題になった。18年初めにアジアの拠点として日本法人を設立。ソフトバンクが親会社であるホークスとの契約はアジアでの本格展開の第一歩となるのだろう。
■基本は受注生産、リスクを負えない球団
カープの成功例があるとはいえ、日本のファン向けグッズの市場は成熟していない。プロ野球では記録達成や選手の引退などに合わせた記念ユニホームやTシャツが登場するようになったが、バリエーションは限られ、人気商品はすぐ売り切れる。各球団の公式販売サイトをのぞいても「売り切れ」「お届けには時間がかかります」の商品が目立つ。大量の在庫を抱えるわけにもいかないため、通常は注文を受けてからの生産となり、手元に届くまで何カ月もかかることが珍しくない。カープは直営のTシャツ製作工場を持つが、現状でリスクを冒して新たな投資に踏み切れる球団は少ないだろう。
売り上げ増やファン拡大のチャンスをみすみす逃しているともいえる。ファナティクス日本法人の川名正憲代表は「ファンにもっと楽しんでもらい、満足してもらうことができるはずです」と話す。チーム側のリスクを同社で引き受け、ファンも含めたウィンウィンの関係を築きたいという。
プロ野球やJリーグを除けば、日本でファン向けグッズの売り上げを伸ばそうと真剣に取り組むチームやリーグはほとんどないだろう。球団はライセンス商品の権利を業者に丸投げできればそれで終わり。権利を得た業者側も魅力的な新商品の開発に知恵を絞ることはあまりないのが実情だろう。
米国でファナティクス社は米国オリンピック委員会(USOC)や各競技団体、大学スポーツとも契約する。海外からの新ビジネスの上陸は、20年五輪・パラリンピックを控える日本のスポーツ界にとって、未開拓の市場を活性化するチャンスかもしれない。
(20年東京五輪開幕まであと646日)