アンワル氏が議員返り咲き マレーシア首相就任へ一歩
【ヌサドゥア(バリ島)=中野貴司】マレーシア中部のポート・ディクソン選挙区の下院補選が13日投開票され、アンワル元副首相が当選した。首相就任の要件である国会議員への復帰が決まり、マハティール首相から約束された近い将来の禅譲に一歩近づいた。ただ、両氏は過去に長く敵対していた経緯もあり、円滑に権力が継承されるかはなお不透明だ。
選挙管理委員会の公式発表によると、アンワル氏は約7割の票を得て、圧勝した。投票率は約58%だった。補選は与党連合の現職議員が選挙区をアンワル氏に譲る目的で辞職したことを受けて実施。投開票前からアンワル氏の勝利が確実視されていた。
「マハティール氏も当選を誇りに思うと言ってくれた」。アンワル氏は当選が決まった13日夜、早速電話で報告したと記者団に明かし、マハティール氏との信頼関係を強調してみせた。
アンワル氏はマハティール氏の最初の首相在任中の1993年に副首相に就き、有力な後継候補と目されていた。だが、アジア通貨危機の対応を巡って対立が深まった末、98年に解任され、逮捕にまで追い込まれた。
その後、野党指導者に転じたアンワル氏は18年5月の総選挙でマハティール氏と野党連合を結成し、政権交代を実現。マハティール氏から次の首相の地位を約束されたが、権力継承の時期は明示されなかった。
アンワル氏は補選当選に続き、11月には有力政党の人民正義党(PKR)の総裁にも就く予定で権力基盤を着々と固める。一方で「首相の就任は急いでいない」と93歳の首相の判断を尊重すると繰り返す。
アンワル氏が低姿勢に徹するのは、マハティール氏のナンバー2への苛烈な扱いを身をもって体験しているためだ。政治評論家のコー・コックウィー氏は「マハティール氏はアンワル氏の議員復帰をもろ手を挙げて歓迎していないだろう」と指摘する。
禅譲の環境が整ったことで、今後マハティール氏に交代時期を明言するよう求める政権内外の圧力は強まる。「アンワル氏の議員復帰で与党連合内の緊張も高まる」(米調査会社ユーラシア・グループのピーター・マンフォード氏)との見方は少なくない。1~2年後のスムーズな権力継承のシナリオが崩れれば、混乱を恐れる海外投資家が資金を引きあげ、通貨安や株安につながる懸念もある。