トルコで軟禁の米国人牧師帰国へ 解除判決
両国の対立緩和も
【アンカラ=佐野彰洋】トルコ西部イズミルの裁判所は12日、テロ関連の罪に問われていたトルコ在住の米国人牧師アンドルー・ブランソン氏の軟禁解除を認める判決を出した。同日夜に米国への帰国の途に就く予定。この問題をめぐり関係が悪化していたトルコと米国の対立が和らぎそうで、通貨安とインフレに直面するトルコ経済に好影響を与える可能性もある。
判決は3年と1カ月半の禁錮を命じるとともに、法的な制限を解くことも認めた。ブランソン氏は現状の自宅軟禁を解かれ、トルコから出国できるようになる。トルコが、同氏の即時釈放を求めてきたトランプ米大統領に配慮した形だ。
トランプ氏は「ブランソン牧師のことでとても頑張った。まもなく無事に帰国することを願っている」とツイッターに投稿した。判決を受け、外国為替市場ではトルコリラが対ドルで一時上昇した。
判決に先立ち、ブランソン氏は「私は無罪だ。トルコを愛しており、釈放を求める」と発言していた。トルコメディアによると、出廷した証人たちは、2016年に起きたクーデター未遂事件について同氏が支援したなどとするこれまでの証言を撤回した。
ブランソン氏はトランプ政権の支持基盤であるキリスト教福音派に属する。11月6日の米中間選挙の投票まで1カ月を切ったタイミングでの釈放はトランプ氏にとって、支持層へのアピール材料となる。
ブランソン氏は1990年代からトルコで布教活動に従事してきた。トルコのクーデター未遂事件の首謀者とされる在米イスラム教指導者ギュレン師の教団などを支援したとして逮捕された。今年7月に自宅軟禁に移されるまで2年近く収監されていた。
エルドアン政権は釈放についての決定は「司法判断」との立場を表向きは貫いてきた。米メディアによると、実際には対イラン経済制裁に違反したトルコ国営銀行に対する制裁金の軽減などを交換条件に交渉しており、7月には合意寸前の段階で決裂していた。
米国とトルコは北大西洋条約機構(NATO)を通じた同盟関係にある。だが、トルコは米軍によるシリアのクルド人勢力支援に反発し関係が冷え込んだ。米政府はブランソン氏の送還が実現しないことにも不満を募らせ、8月に対トルコの経済制裁を発動した。リラが急落する「トルコショック」を招き、連鎖的に世界の金融市場を揺さぶった。
リラ急落の影響でトルコ経済はインフレ率が20%を超える。外貨建て債務の負担が膨らみ、企業の破綻や債務再編が相次ぐ。19年のマイナス成長の可能性が取り沙汰され、対米関係の改善は切実な課題だった。
トルコは中東と欧州をつなぐ地政学上の要衝に位置し、冷戦時代は旧ソ連封じ込めの最前線を担った。シリア情勢の安定や、敵対するクルド人勢力排除を目的にエルドアン政権はロシアやイランに接近している。米国としてもこれ以上のトルコの「西側離れ」は避けたいのが本音だ。
強権姿勢で共通する両大統領の面目を保ちながら、事態を収拾するには今回がぎりぎりのタイミングだった。
ただ、トルコによる最新鋭のロシア製地対空ミサイルシステム「S400」購入問題やイランからの原油購入など、米トルコ関係の火種は依然くすぶり、全面的な関係改善までの道は遠い。