孤軍奮闘の巨人・菅野 沢村賞の全条件クリア
3位でクライマックスシリーズ(CS)進出の可能性を残しながら、巨人の高橋由伸監督が今季限りでの辞任を表明した。最後まで波に乗れなかったチームにあって、圧倒的な存在感を放っているのが菅野智之だ。リーグ最多タイの15勝をマークして2年連続の最多勝を確定させた右腕は、現時点で沢村賞の選考基準を全てクリア。打線の援護に恵まれない中で、孤軍奮闘ぶりが際立っている。(記録は8日現在)
4日、マツダスタジアムで行われた広島との最終戦。試合前には高橋監督から辞任することを伝えられ「誰かのために投げようというのはあまり思わないが、きょうは監督のために投げようと思った」。強い覚悟で臨んだ一戦で、自身3戦連続の完封勝ちを収めた。被安打4、11奪三振で無四球。今季、チームが大きく負け越していたリーグ覇者を寄せつけず、意地の投球を披露した。
チームをCS進出へ前進させたこの快投で、今季の完封勝利は8度となった。シーズン8度の完封勝ちは、1978年に鈴木啓示氏(近鉄)がマークして以来、40年ぶり。先発、中継ぎ、抑えの分業制が確立された現代においては驚異的といえる数字を残し、奪三振も球団では81年の江川卓氏以来となるシーズン200個に到達。同時に、沢村賞の選考基準である7項目(15勝以上、150奪三振以上、10完投以上、防御率2.50以下、200投球回以上、登板数25以上、勝率6割以上)も全てクリアした。
目標に定めた2年連続2度目の沢村賞受賞にぐっと近づいている右腕は今季、孤立無援といえる状況でも踏ん張り、勝負どころの試合でチームに白星をもたらしてきた。
CS進出を目指すうえで最大のライバルであるDeNAとの直接対決に先発した9月28日(東京ドーム)。味方打線はそれまで巨人戦5戦5勝のドラフト1位ルーキー、東克樹を打ち崩せず、互いにスコアボードに「0」が並ぶ苦しい展開となった。「東くんにも気迫を感じたし、本当にいい投手だと感じた。ただ、負けるわけにはいかないので意地をみせた」と菅野。巨人キラーの相手左腕が7回無失点で降板した後も相手打線に立ちはだかると、九回裏1死無走者で長野久義の劇的なサヨナラ本塁打が飛び出し、1-0で今季7度目の完封勝利を手にした。
この試合、球数はわずか103球でも楽な投球内容ではなかった。二回は4番筒香嘉智、5番宮崎敏郎に連続四球を与えて無死一、二塁とするなどたび重なるピンチを招いた。シーズン中、際どいコースを突きすぎる完璧主義が自身の投球を苦しめているとの評論家の指摘も受けたが「DeNAの一番の得点力は本塁打。まして狭い東京ドーム。とにかく低めに、丁寧にと考えた」。決して本調子でないと自覚し、制球がアバウトになることは避け、慎重に粘り強く投げ抜いた。「きょうも四隅を狙っていましたよ」とにやりと笑った。
「常に完封する気持ちで登板している」と明言し、その言葉にたがわない堂々たる姿をマウンドで示し続けた今季の菅野。CSの舞台に進み、グラウンドを去る高橋監督を前に再びはなむけとなる快投をみせるチャンスが訪れるか。チームは瀬戸際を迎えている。
(常広文太)