スルガ銀再建、険しい道 不適切融資の傷痕深く
金融庁が5日、スルガ銀行に対して業務停止命令を出した。今後の焦点は同行の経営再建の道筋に移る。行政処分には不正が横行していた投資用不動産向け融資を止め、経営体質の抜本的な見直しに専念させる狙いがある。ただ不適切融資の件数は多く、融資が焦げ付く懸念は消えない。極端に投資用不動産に偏った事業モデルの再構築も難しく、信頼回復への道は険しい。
「相当数の営業職員が不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた」。金融庁が処分理由の最初にあげた審査書類などの改ざんは手続き上の不正だ。ただ結果として本来の返済能力を上回る過剰な融資になっているうえ、周辺の相場を大幅に上回る高値で物件を購入させられている人が多い。今後こうした融資が焦げ付く懸念は小さくない。
スルガ銀の総資産は4兆2000億円。17年3月期まで5期連続で最高益を更新したが、18年3月期はシェアハウス問題が表面化し、前の期まで400億円を超えた連結純利益は69億円まで減少。18年4~6月期までに、焦げ付きに備えた貸倒引当金を717億円計上している。19年3月期の純利益は250億円を見込むが「下方修正の可能性がある」としている。
金融庁は「持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的な強化」も求めた。群を抜く高収益を支えてきた投資用不動産向け融資は不正の上に成り立っていた。最大の収益源だった同融資を封印すると、スルガ銀は収益の柱がなくなってしまう。
ある金融庁幹部は「まず原点に立ち返る必要がある」と話す。スルガ銀は単身女性や自営業者など、他の金融機関の融資基準を満たさない人にも独自の審査モデルをつくって住宅ローンなどを貸してきた。異端とされながらも、一般的に信用力に劣る人にリスクを取って融資することで、高い利益率を確保してきた。
有国三知男社長も5日の記者会見で「定型的なものでなくスルガらしい独自性のある住宅ローンを開発していきたい」と述べ、従来のリテール(個人向け)中心のビジネスモデルは変えない考えを示した。
だが、一連の不正が起きた投資用不動産向け融資にのめり込んでいった背景には、スルガ銀独自のモデルの先進性が薄れたことがある。収益環境が厳しいなかで他の金融機関も似たサービスを相次いで投入。増収増益を続けるために、スルガ銀は不正をいとわない体質が定着していった。
スルガ銀は解体的出直しを迫られるが、単独での再建は厳しいとの見方もある。他の金融機関やファンドなどが支援に乗り出すとの観測もくすぶり、有国社長も「企業価値が上がるのであれば否定するものでなく、選択肢として捨てない」と述べた。その際には、創業家が手放す意向を示している15%超の株式の売り先が焦点となる。
スルガ銀の被害者弁護団は5日、金融庁が不動産融資の債務者に対する元本一部カットなどの対応を求めた点について「被害者の救済にまで踏み込んだ点につき評価する」などとコメントした。弁護団は9月にスルガ銀側に対し、不正を見過ごしていた元幹部らへの損害賠償請求訴訟の提起を求める文書を通知。対応がなされない場合には「株主代表訴訟も辞さない」(河合弘之・弁護団長)としている。