工場復旧 なお途上 広島・三原、浸水から3カ月
コカ・コーラ、再開見通しまだ 山陽乳業は年内完全操業へ
7月6~7日の西日本豪雨から3カ月。JR山陽本線が全線再開するなど復興は着実に進みつつあるが、まだ完全に立ち直ったわけではない。沼田川の氾濫で広範囲に浸水した広島県三原市ではコカ・コーラボトラーズジャパン本郷工場などの操業が停止したまま。複数の工場が「年内にも復旧」を目指し、懸命な取り組みを続けている。
1.25リットルペットボトル入りコカ・コーラやファンタが全国の店頭からほぼ姿を消した。約2.5メートル浸水したコカ・コーラ本郷工場だけで製造していた商品だからだ。
敷地面積8万3千平方メートルを誇る同工場は、同社の製造量の約5%を担っていた。豪雨による浸水で無菌充填ペットなど3つの製造ライン全てと自動倉庫が停止。社員寮も使えなくなった。被害額は未公表だが、被災した工場設備と在庫約150万ケース(1ケースは500ミリリットルペットの場合24本)の簿価は約90億円に達する。
現在、物流施設はフォークリフトなどで稼働させているが、自動倉庫の復旧は年末の見通し。ラインは復旧に向け調査・検討中だが「相当期間、操業不能の見込み」だ。
三原市を流れる沼田川は計11カ所で氾濫した。本郷取水場が水没し、三原市と隣接する尾道市の全10万8千世帯余りが断水した。断水は7月30日までに解消したが、工場の再生は道半ばだ。
コカ・コーラ工場に隣接する東洋製缶広島工場は「年内に、まず酎ハイなどの350、500ミリ缶などの製造ラインを復活させる」(内田健二総務課長)。被災後2カ月で泥にまみれた機器の分解・洗浄を終え、今はこれらを再び組み立てている段階だ。このほど工場の存続を決めたが、缶とペットボトル中間製品の計13ラインを全て復旧させるかどうかは未定だ。
事務所や工場が全て浸水した。電源も使えなくなったため、9月中旬まで発電機による電力調達が続いた。同社13工場の中でも広島工場だけで生産していたミートソースなどの280ミリ缶は市場から姿を消した。
果汁飲料のヒロシマ・コープ(三原市)も本社工場が使えなくなった。管理部門は親会社のJA広島果実連(広島県竹原市)内に仮事務所を構え、復興を目指している。
一方、完全復旧が見えてきた企業も多い。
「あそこまで水が来たんですよ」。山陽乳業(三原市)の原井博孝常務はコピー機の横の壁面を指さした。1.5メートルほどの高さに、漏れ出たインクの跡が残っている。
1日80トンの牛乳を生産していた同社は、ようやく11月2日に学校給食用牛乳の製造を再開する。今はチチヤス(広島県廿日市市)など4社から調達した牛乳を届けているが、11月5日から再び広島・岡山2県の小中学校350校に自社製造の200ミリリットル牛乳8万1千パックを届ける。市販の牛乳やヨーグルトなどの生産も順次再開し、年内の完全復旧を目指す。
浸水で使えなくなった充填機を新品に替えた。10月10~12日に試運転して本番に備える。総投資額は10億円を超えた。
段ボール製造の王子コンテナー三原工場も「年末か年明けには完全復旧する」。ネット通販の拡大で需要が急増する中、プロジェクトチームを立ち上げて復旧を急いだ。全4ラインは8月16日から順次再稼働し「機械が古くて部品調達に時間がかかったが、現在7~8割まで復旧した」。
メラミン化粧板最大手のアイカ工業は被災した広島工場(三原市)の接着剤の生産を福島県などの工場に一時移管した。7月20日に一部品目、9月3日に残る品目の生産を再開し完全復旧した。7月末には小野勇治社長が天満祥典三原市長を訪ね1千万円を寄付した。
特に食品関連の工場は衛生管理の面からも再稼働にはより慎重にならざるを得ない。現在、沼田川の決壊箇所は土のうを積んだ応急処置の段階で「台風の襲来も相次いでおり、同様の災害が繰り返されないか心配だ」との声もある。(増渕稔)
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