リー・チョンウェイは東京五輪に間に合うか
編集委員 北川和徳
圧倒的な実力を誇りながら、4年に一度の五輪で勝てない選手がいる。今ならバドミントン男子のリー・チョンウェイ(35)がその代表格だろう。2008年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロと五輪のシングルスで3大会連続の銀メダル。2年後の東京で悲願成就を目指すのかと注目していた彼について、心配なニュースが入ってきた。
今夏から体調不良を理由に大会を欠場していたのだが、マレーシア・バドミントン協会が鼻のがんで治療中だと発表した。進行のステージは浅く、経過は順調と伝えられているが、復帰は東京五輪に間に合うだろうか。
■金メダルに無縁も際立つ存在感
桃田賢斗(24、NTT東日本)が日本男子初の世界ランク1位に立ったことで、あらためて歴代の1位選手の推移を調べて驚いた。リーの存在感は際立っている。
世界バドミントン連盟(BWF)のホームページでさかのぼれる09年10月以降、現在まで丸9年のうち通算で約6年はリーがランク1位。特に14年12月までは1位を譲ったのは12年ロンドン五輪前後の約2カ月しかない。
14年の世界選手権で故障への医学的治療が原因となるドーピング違反で8カ月の出場停止処分を受けてランキングを下げるが、復帰するとリオ五輪直前にまた定位置に戻り、さらに1年近く1位を維持した。
これほど圧倒的で安定した強さを誇りながら五輪の金メダルには縁がない。世界選手権のタイトルさえ獲得していない。年下の林丹(34、中国)という勝負強いライバルがいたこともあるが、リオでは林丹を準決勝で下した後、同じ中国の諶龍(29)に屈した。
マレーシアはあらゆる競技を通じてまだ五輪の金メダルを取っていない。母国の国民的英雄である彼の胸中を思うと、切ない気持ちにさえなる。
年齢を重ねて体調の維持が難しくなっても、リーのプレー自体には衰えはなかった。休養前のマレーシア・オープン決勝では21連勝中だった桃田を2-0で破った。翌週のインドネシア・オープンは桃田が雪辱したが、ベストコンディションで臨めば、今の桃田と互角に戦える数少ない相手だろう。
リーは2年前、不祥事で謹慎してコートを離れていた桃田にこんな言葉を贈っている。「百パーセント正しい道を歩める人間はいない。間違いを犯したら、それに気付き、自分を変えて、強くなって帰ってくればいい」
その言葉に見事に応える形で世界1位に立った桃田に、リーへの気持ちを聞いた。「彼との試合ではいつも特別な感情になる。学ぶこともすごくたくさんある。少しでも早くコートに戻ってきてほしい」
(20年東京五輪開幕まであと660日)