止まっていた時が動き始めた? ウッズ復活V
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
優勝を決めたとき、両手を高々と上げてつくったガッツポーズは、少しぎこちなかった。2013年8月以来の優勝。あのタイガー・ウッズ(米国)でさえ、絵になるようなフィニッシュシーンをどう演出するか、忘れていたのだろうか。
■初日から首位を譲らず完全優勝
米男子ゴルフのプレーオフ最終戦、ツアー選手権(9月20~23日、アトランタのイーストレークGC)で、ウッズが初日から首位を譲らず完全優勝を果たした。その瞬間が迫ると、普段はゴルフに興味のない人までもが、テレビの前にくぎ付けになったはずだ。さらに、同じ組で回っていたジャスティン・ローズ(英国)が、最後のホールでスコアを伸ばせなければ、ウッズにシーズン総合優勝のチャンスさえ転がり込む状況が加わっていたのだから、最後の最後まで目が離せなかった。
直後から、ツイッターやインスタグラムといったSNS(交流サイト)の世界でも話題となり、ウッズの優勝は地球の裏側にまであっという間に拡散したようだが、それを担った若い人たちの喜びも理解できる。SNSを自在に使いこなす彼らにしてみれば、初めて目の当たりにするウッズの強さだったのだ。
ウッズの全盛期については様々な意見があるが、24歳だった00年、彼は全米オープン選手権、全英オープン選手権、全米プロゴルフ選手権とメジャー大会を3試合連続で制した。
それは1953年にベン・ホーガン(米国)がマスターズ選手権、全米オープン、全英オープンに勝って以来の快挙だったが、ウッズは年が明けた01年4月、マスターズで優勝すると、メジャー大会4連勝。前人未到の記録をつくったそのとき、ウッズは伝説となり、それ以降はその伝説にさらなる彩りを加えていった。
ただその当時、今回のウッズの優勝に浮かれた若者たちはまだ、よちよち歩きを始めたばかりだったはず。物心ついたころ、ウッズは醜聞にまみれ、けがでツアーを離れることも少なくなかった。彼らにとってウッズは、歴史上の偉人であったのだ。その偉人が現代によみがえったのだから、あれだけの熱狂もさもありなんか。
それにしても、劇的な復活だった。
もちろん、今年のプレーを見ていれば、いつか勝つだろうとは予想できた。ツアー選手権を迎える前の段階で17試合に出場してトップ10が6回。メジャー大会でも2度、トップ10入りしている。
しかし同時に、ビッグイベントでは勝ちきれないもろさがあった。全英オープンでも最終日に一時は単独首位に立ちながら、後半で崩れた。全米プロでは2位に入ったが、初日の出遅れを取り戻せなかった。
やはり、ツアーを席巻する若手選手らにはかなわないのか――。それは誰より本人が一番感じていたはずだが、今回その壁を越えてみせた。
ツアー選手権といえば、フェデックスカップポイント上位30人だけに出場権が与えられる特別な大会といっていい。
メジャーにも匹敵するその大会で、ウッズは一度も首位を譲ることなく、全盛期をほうふつとさせる強い勝ち方をみせたのだ。それは、筋書きに無理があるとたびたび批判された英国の作家、チャールズ・ディケンズでさえ描けなかったのではないか。正直、次の勝利よりも故障で長期欠場する確率のほうが高いと思われていたのである。
■ツアー最多勝記録まであと2勝
これで米ツアー80勝目。サム・スニード(米国)の最多勝記録まであと2勝とした。
止まっていた時が動き始め、あと4勝と迫るジャック・ニクラウス(米国)のメジャー最多勝記録(18回)の背中もみえてきた――。いや、さすがにそこまで考えるのは性急か。
99~08年の10年間で、ウッズはメジャー大会13勝をマークしたが、再びそんな黄金期が訪れるとはさすがにイメージができない。ウッズも12月に43歳となる。
しかし、このまま大きなけがをすることなくプレーを続けられるとしたら?
もうしばらくの間、ツアー選手権を制した余韻に浸るのもいいかもしれない。