米朝、非核化交渉再開へ調整 南北合意の認識にズレも
【ワシントン=永沢毅、ソウル=恩地洋介】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は20日、2泊3日の訪朝日程を終え、ソウルに戻った。北朝鮮が条件付きの核施設廃棄を打ち出し、非核化協議の舞台は再び米朝に移る。米国は月内にも北朝鮮との交渉再開を調整する。核施設への査察などを巡る認識のズレも露呈しており、非核化の進展に結びつくかは予断を許さない。
文氏は20日、ソウルで記者会見し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「可能な限り早い時期に完全な非核化を終え、経済発展に集中したい」と述べたと明かした。5月に爆破した豊渓里核実験場の検証をいつでも受け入れる考えも示したと説明した。
こうした金正恩氏の姿勢を踏まえ、文氏は「米朝対話の条件は整った」と強調。南北会談の共同宣言に盛り込まなかった非公開の内容があり、24日の米韓首脳会談でトランプ大統領に伝える方針も示した。朝鮮戦争の終戦宣言を巡り協議する意向も表明した。
米朝の実質的な協議は7月上旬のポンペオ氏の訪朝を最後に途絶えている。米国は今回の南北会談を契機に、膠着状況を打開したい考え。同氏は19日の声明で、南北会談を「成功した」と評価。「ただちに交渉する用意がある」として、北朝鮮側にニューヨークの国連総会で李容浩(リ・ヨンホ)外相と会談したい意向を伝えた。
しかし現時点では南北の合意と米国の認識にはズレがあるように見える。1つ目は、北朝鮮が合意文書「9月平壌共同宣言」で表明した寧辺(ニョンビョン)核施設の「永久的廃棄」に関してだ。ポンペオ氏は19日の声明で「米国と国際原子力機関(IAEA)の査察官の立ち会いのもとになされる」と断言した。実際の合意文書にこうした文言はない。
2つ目は非核化の完了期限だ。ポンペオ氏は声明で、トランプ氏の任期である「2021年1月まで」と金正恩氏が約束していると説明。5日に訪朝した韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長に金正恩氏が同期限を示したとされるが、今回の文書や記者会見では触れなかった。
ポンペオ氏は19日収録のFOXテレビのインタビューで、南北会談によって「私たちはさらに進展をなし遂げた。北朝鮮の核計画の検証もすることになる」と表明。「報道されないが、私は交渉相手と頻繁に話をしている」と語った。南北合意にはなかった査察や期限を巡って米朝間で水面下のやり取りをしている可能性もある。
ただ、証拠のない「口約束」は今後の混乱要因となる懸念をはらむ。8月にはボルトン大統領補佐官が、金正恩氏が4月の南北首脳会談で「1年以内の非核化」に触れたと明かしている。トランプ氏の任期内が期限だと指摘するポンペオ氏らの認識とも一致しているか微妙だ。
韓国側は今回の南北首脳会談で、米国の要求に沿って核施設の申告や保有する核弾頭の段階廃棄を促そうとした。だが会談の結果を見る限り、北朝鮮が核弾頭や弾道ミサイルの廃棄に踏み込むそぶりは見せなかった。完全な核放棄への意思には疑念がつきまとう。
米国は来週にも開く米朝外相会談を皮切りに、非核化協議を再開し認識の溝を埋める構えだ。ただ、金正恩氏は19日の記者会見で、米国主導の交渉には乗らない意思をにじませた。交渉カードを小刻みに切る北朝鮮との協議の行方は、なお波乱含みだ。
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