南北合意、融和先行 軍事・経済で危うさ
軍事境界線の監視所試験撤収 鉄道連結へ着工式
【ソウル=山田健一】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は19日、9月平壌共同宣言合意書に署名した。南北軍事境界線に設置された監視所の試験撤収と南北の鉄道をつなぐ工事の着工式を2018年末までに実施すると明記した。融和を先行させる文政権の方針は、安全保障や経済で米韓の間にすきま風を呼ぶ危うさをはらむ。
韓国と北朝鮮は(1)軍事的緊張の緩和(2)経済協力の活性化(3)離散家族問題の根本的な解決――など6つのテーマを協議した。軍事的緊張の緩和については、両首脳が合意書に署名後、韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防相と北朝鮮の努光鉄(ノ・グァンチョル)人民武力相が別途、軍事分野に限った合意書をまとめ、特に重視する姿勢を示した。
具体的には、南北が軍事共同委員会を早期に稼働させ、偶発的な武力衝突の防止のため緊密に協議する。11月からは軍事境界線付近で、相手側を敵に想定したあらゆる軍事演習を中止。軍事境界線の南北2キロメートルに設定された非武装地帯(DMZ)にある11カ所の監視所を撤収する。
南北の国防相が署名した軍事分野の合意書では、軍事的衝突を招く恐れのある問題を平和的に協議し、いかなる手段によっても相手を攻撃、占領しないことも明記した。10年に起きた韓国哨戒艦撃沈や延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件のような悲劇を繰り返さない狙いがある。
韓国大統領府の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席秘書官は19日、ソウルで記者会見し、南北首脳が署名した平壌共同宣言について南北が「実質的に(朝鮮戦争の)終戦を宣言した」のと同じ価値があるとの認識を示した。
一方、経済協力では、交通インフラの整備を急ぎたい北朝鮮の希望に沿う形で、南北の鉄道と道路をつなぐ工事の着工式を年内に実施する方針。条件が整えば、北朝鮮の有力な外貨獲得手段になる金剛山観光と、過去の南北対立を機に稼働が中断している開城工業団地の両事業を再開させることでも合意した。
文政権は18~19日の南北首脳会談について、北朝鮮の非核化に加え、軍事的緊張の緩和と南北関係の改善が主要議題だと説明してきた。非核化を巡る合意は実質的な中身が乏しいとの見方が出るなか、同政権としては非核化以外の分野で成果を国内にアピールする狙いとみられる。
もっとも鉄道や道路の連結は、建設に欠かせない鉄鋼などを韓国から北朝鮮に送れば国連制裁に抵触する疑いがある。DMZの監視所撤収は一時的に国防力の低下につながりかねない。非核化実現まで北朝鮮に対する圧力継続を訴える米国や日本との協調をどう保つかが課題になりそうだ。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記のもと、ミサイル発射や核開発などをすすめる北朝鮮。日本・アメリカ・韓国との対立など北朝鮮問題に関する最新のニュースをお届けします。