注目集まる3歳有力馬 大一番へ異例の臨戦過程
調教施設充実、選択肢広げる
9月の中山、阪神開催では3歳クラシック三冠の最終戦、菊花賞(10月21日、G1・京都)、3歳牝馬の三冠目、秋華賞(10月14日、同)に向けたトライアルが行われている。牝馬は16日のローズステークス(G2・阪神)でトライアルが終わった。菊花賞戦線では17日にセントライト記念(G2・中山)が行われ、23日には神戸新聞杯(同・阪神)が組まれている。有力馬が大一番を前にトライアルに出走するのは定石の臨戦過程だが、今年は牝馬二冠のアーモンドアイ(美浦・国枝栄厩舎)が春のオークス(G1)から秋華賞へ直行。牡馬でも日本ダービー(同)5着のブラストワンピース(美浦・大竹正博厩舎)が夏の新潟最終週に行われた新潟記念(2日、G3)から菊花賞へ向かう。異例の臨戦過程を選択した有力馬が次の大一番で好走できるかに、注目が集まる。
秋華賞のトライアルはローズSと紫苑ステークス(8日、G3・中山)の2つ。ローズSはカンタービレ(栗東・中竹和也厩舎)が優勝した。道中は2番手からレースを進め、最後の直線で先頭に立つと後続を突き放して、そのまま押し切った。騎乗したクリストフ・ルメールは「状態がよく、自信があった」と喜んだ。紫苑Sはノームコア(美浦・萩原清厩舎)が先行馬群の中から最後の直線で抜け出し、2着馬に3馬身差をつけて勝った。
一方、17日の菊花賞トライアル、セントライト記念はジェネラーレウーノ(牡、美浦・矢野英一厩舎)が2番手から抜け出す競馬で快勝した。23日の神戸新聞杯には、主戦騎手の戸崎圭太が「以前より力強くなっている」と語る皐月賞(G1)の勝ち馬、エポカドーロ(牡、栗東・藤原英昭厩舎)が出走。菊花賞には向かわない可能性が高いが、ダービー馬ワグネリアン(牡、栗東・友道康夫厩舎)も参戦する。
秋華賞も菊花賞もトライアルから参戦する馬の成績がいい。過去10年でみると、秋華賞ではローズSから出走してきた馬が6勝を挙げ、連対率も17.5%と高い。紫苑S組も最近は好調で、一昨年のヴィブロス、昨年のディアドラと2年続けて優勝馬を出した。菊花賞では神戸新聞杯組の成績が良く、過去10年で8勝。連対率も高く、20.0%を記録する。
ただ今年は、あえてトライアルに出走しない異例の臨戦過程を選ぶ馬が出てきた。牝馬では春に桜花賞(G1)とオークスの二冠を制したアーモンドアイがオークスから秋華賞に直行する。故障などの理由もなく、この臨戦過程を選ぶのは珍しい。
牡馬でもブラストワンピースが新潟記念から菊花賞へと向かう。新潟記念は鋭い末脚を使い圧勝だったが、この臨戦過程だった馬は、菊花賞の施行時期が2000年に11月上旬から10月下旬に移されて以降、昨年のウインガナドル1頭だけ。夏の新潟からの臨戦自体が少なく、新潟記念以外のレースから出走してきた馬に範囲を広げても4頭しかいない。極めて異例な臨戦過程だ。
いずれの臨戦過程も、過去の実績でみるとトライアル組と比べて分が悪い。特に夏の新潟から菊花賞の臨戦では連対馬はゼロ。「新潟記念→菊花賞」のウインガナドルは16着に敗れている。
秋華賞では、1996年に同レースが創設されて以降、前回のレースから10週以上の間隔を開けて出走してきた馬が58頭いる。夏の新潟から菊花賞の臨戦に比べれば前例は多いが、連対率は6.9%どまり。ファビラスラフイン(96年)、テイエムオーシャン(01年)、カワカミプリンセス(06年)と3頭の勝ち馬もいるとはいえ、トライアル組と比べるとデータ上は劣勢である。
それでも、アーモンドアイとブラストワンピースの陣営は、間隔を空けた臨戦過程が両馬にとってベストと考えているようだ。実は、いずれも大手牧場のノーザンファームが生産し、同ファームと関係の深いクラブ法人、シルクレーシングが馬主という共通点がある。ともにレースの合間は福島県にある系列の牧場、ノーザンファーム天栄で過ごす。
近年は、日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンター近郊の牧場の調教施設が充実しており、放牧中でもレースに備え、十分な負荷をかけた調整ができる。トレセンの施設でも今ほど充実していなかった時代は、調教だけでは仕上げきれず、レースを使いながら馬の体調を上げていく陣営も多かった。いまはレース間隔が空いても、実戦で好勝負できるレベルにまで、調教だけで仕上げられるようになった。トレセン外も含めた調教施設の充実と、それを使った調教ノウハウの蓄積が、臨戦過程の選択肢を広げた格好だ。アーモンドアイとブラストワンピースの2頭もレースでのダメージを後に残さないよう、間隔を空けて疲れを取りつつ、牧場の施設を活用し、次のレースに向けて態勢を整えられている。
間隔が空いても力を出せる馬が増えていることはデータからもわかる。条件戦も含めた平地の全レースを調べると、前のレースから10週以上の間隔を空けて出走した馬は95年には3618頭、00年には4613頭だったが、17年には9928頭にまで増えた。勝利数も617と00年の264と比べ、大幅に増加した。これより間隔を詰めた臨戦過程と比べると連対率はまだ低いが、90年代後半には4~5ポイント程度あった差は、17年は2ポイント台にまで縮小している。
その代わりに成績が落ちているのが、2週連続でレースに使う「連闘(れんとう)」や2週後の出走など、かなり間隔を詰めた場合で、連闘の勝ち星は00年の225から17年は57、2週後に出走した馬は1064から473へと大幅に減った。「間隔が空いているから割り引き」という考えは古いものになりつつあるといえそうだ。
実際、アーモンドアイ、ブラストワンピースはともに春も異例の臨戦過程でクラシックに臨んでいた。アーモンドアイは1月のシンザン記念(G3・京都)から4月の桜花賞に直接臨んで圧勝。ブラストワンピースも3月の毎日杯(G3・阪神)から5月のダービーに出走し、5着と健闘した。秋もこの2頭が結果を残せば、大一番への異例の臨戦過程も今後、定着するのかもしれない。
(関根慶太郎)