「商業捕鯨再開へ方針揺るがず」 水産庁・長谷長官
14日まで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)総会は商業捕鯨の再開など日本の提案を否決する一方、鯨類保護を推進する宣言を採択した。クジラは世界に80種類ほどいる。日本は資源が豊富な種類について持続的な捕鯨と利用を訴えたが、反捕鯨国の姿勢は強硬で対立は一段と鮮明になった。ニッポンの捕鯨は、どうなるのか。水産庁の長谷成人長官に聞いた。
――今回の結果をどう受け止めていますか。
「日本の提案が合意を得られなかったのもさることながら、IWCが異なる立場や意見の『共存』を受け入れる意思がない場であることが明らかになったと考えざるを得ず、何よりもそのことが極めて残念だ。どれだけ科学データを積み重ねても反捕鯨国には理解されないことが明らかになった総会だった」
「IWCが大型鯨類の商業捕鯨を一時停止してから30年余年が経過した。決して永久に禁じたのではなく『資源を管理するには科学データが不十分だから一時中断しましょう』というルールだった。日本はこれまで地道に調査捕鯨を継続し、南極海ではクロミンククジラの資源が安定しているほか、ザトウクジラは年に1割近いペースで急回復しているのも確認している。反捕鯨国の立場にも歩み寄り、丁寧に説明したが、全く受け入れられなかった」
――日本がIWCに拠出する分担金は年間2千万円。全体の1割を占め、加盟国中最大です。加盟し続ける意味はあるのでしょうか。
「確実に言えることは、商業捕鯨の再開を目指す日本の方針に何の揺らぎもない。この先30年後も捕鯨をつないでいくため、必要な判断をする」
「(今のIWCは)捕鯨支持と反捕鯨、お互いの利益を考える国際会議の場になっていない。今後はあらゆる選択肢を精査する。ただ、調査母船『日新丸』は老朽化で3年ほどで利用できなくなる可能性がある。時間の余裕はそれほどない。新たな捕鯨船の大きさや性能などを詰めるためにも、日本が目指すべき商業捕鯨の姿を明確にする必要がある」
――水産庁の捕鯨関連予算は51億円、海の生き物で最大です。クジラを食べたことがない若い世代を中心に「クジラのためにそこまでしなくても」との声もあります。
「予算には捕獲調査のための直接的なものだけでなく、反捕鯨団体などの妨害対策や、IWCとの共同調査など幅広い。クジラの利用をあきらめれば、マグロなど他の水産資源にも影響が出るため粘り強く交渉している。クジラは日本人の貴重な食料であり、科学的根拠に基づいて持続的に利用すべきだと考えている。これは他の水産資源も同じだ」
「世界で水産物の需要が高まるなか、国際的な漁獲量管理の必要性はますます高まっている。国際会議の場では、科学的な資源評価に基づき合意を形成する。かわいいから、かわいそうだからなどといった基準で秩序ある水産物の利用はできない」
「世界には様々な食文化がある。多様性を尊重し合いながら、貴重な食料資源を持続可能な形で利用する権利がある。クジラに関する文化を育み続ける地域の期待もある。クジラで安易な妥協はできない」
――外国から非難されてまで食べたくないという日本人もいます。懐かしさだけでは消費は増えません。
「反捕鯨団体からのサイバー攻撃を恐れ、店頭に置かないスーパーもあると聞く。一部に『食べちゃいけない』というイメージもあるのかもしれない。捕鯨関係者が安心して職務に従事し、流通できるよう国としても全力でサポートする」