管理職、スポーツに学ぶ「組織運営」
研修で監督役、チームの力引き出す
マネジメントやチームワークを学ぶ機会として、スポーツを企業研修に活用する動きが広がっている。筑波大発ベンチャーやスポーツ関連企業が企画し、実践に基づく「組織運営」を学ぶ手法として注目されている。
7月29日、東京都内の体育館で女子バレーの「大会」が開かれた。参加6チームの選手は6つの高校から集まった約90人。各校のバレー部の指導者から事前に提供された、「サーブ」「アタック」といった選手個別の能力や特徴を記したチェックシートをもとに、戦力やポジションが拮抗するようにシャッフルされた。急造チームを指揮するのは抽選で割り当てられた企業の管理職や幹部候補生12人だ。2人一組で「監督」を務め、翌日にかけ、チームワークを試す場としてパスをミスなく回した回数を競ったほか、予選リーグ・決勝トーナメント形式で行われる試合を戦った。
監督にバレー経験はなく、各チームに「ジョーカー」として1人ずつ加わった大学バレー部員の助けも借りながら手探りで練習は始まった。すぐに実戦的なパス回しを始めるチームがあれば、意思統一を図るため車座になって、まずは名前を覚えるところからミーティングに時間を費やすチームも。自ら練習に加わって選手を鼓舞する男性監督もいて、それぞれの個性が表れた。
■管理能力の特性見つめ直し再構築
研修は筑波大発ベンチャー「Waisportsジャパン」(東京・目黒)が2年前に企業向けに開発した。成績を「組織の業績」、選手の満足度を「部下のやりがい」に見立て、両立を図りながら自分の管理能力の特性を見つめ直し、再構築するきっかけにするのが目的だ。「ぐいぐい引っ張るタイプの『監督』が必ずしも成績を残すとは限らない」と代表の松田裕雄さん。
大会では予選リーグ6戦全敗だったチームが徐々に粘ってつなぐスタイルを醸成させ、トーナメントに入ると強力なアタッカーを擁した「優勝候補」を破って決勝進出する波乱も。監督の女性は「積極的に選手の意見を引き出すよう意識したのがよかった」とコミュニケーションが「勝因」と話した。
終了後は受講生の間で感想や意見を交換した。「バレーのスキル自体がない。指導に説得力を持たせるのが難しい」「能力も積極性も乏しい選手をどう使うか」など、働く現場にも置き換えられそうな悩みが聞かれた。受講生は課題を職場に戻って実践し、3、6カ月後に集まってフィードバック研修も実施する。
研修には建設コンサルティングや外食など様々な業種の管理職が集まり、7月の別の回には全日本空輸のグループ会社18人が参加した。全日空人財戦略室ANA人財大学の柳沢尚希マネジャーは「非日常の空間で自分のマネジメントスタイルを客観視する機会になる」と効果を期待する。企業側の研修にとどまらず、集まった高校生にとっても慣れ親しんだ普段の仲間とは異なる急造チームに入り、初対面の大人のもとでプレーすることで社会性や自主性を育む狙いもプログラムには盛り込まれている。
スポーツによる企業支援のアスポ(東京・港)は、アメリカンフットボールとサッカーの要素を融合させた「アメサカ」と名付けた陣取りゲームを企業研修に提供している。対戦チームがオフェンス側とディフェンス側に分かれ、接触は禁止としながら、サッカーのパスなどをつないで進んだ陣地に応じて得点が入る仕組み。攻防を入れ替わりながら一定の回数を繰り返し、優劣を競う。
既存の競技ではなく、独自のスポーツを取り入れ、経験の有無による差が出にくくしたのに加え「意見交換をしながら適切にルールを把握し、戦術を組み立てていくところまで、チームワークや役割分担などが試される」と前田直樹代表。春先は新入社員、秋は管理職の研修で参加する企業が多いという。「スポーツは企業の縮図。机上の論理だけでなく、楽しみながらもリアルに体験することで、実際に企業でも起こっているようなことと重ね合わせて『気づき』の機会としてもらえれば」と前田さんは話す。
スポーツイベント企画のスポーツワン(横浜市)は、地図を手に時間内にチェックポイントを回って集めた得点で競う「ロゲイニング」と呼ばれる野外スポーツを4年ほど前から提供する。複数の参加者がチームで動くため、効率的に回るには互いの協力や戦略が欠かせない。担当者は「意見交換をしあうなかで横のつながりも育まれる」とアピールしている。
(西堀卓司)