エキサイト買収、上場IT再編の深謀 XTech
2018年1月に設立したばかりのインターネット関連企業、XTech(クロステック、東京・中央)がジャスダック上場の老舗ネット企業のエキサイトを買収する。新進企業が上場会社を傘下に入れる珍しい例だ。クロステックの西條晋一社長(45)はネット分野の上場企業が抱える問題を指摘する。
西條氏は新卒で伊藤忠商事に入った。同社とネット業界全般の話をするなかで、伊藤忠が筆頭株主を務めるエキサイトの話題になったことが今回の買収のきっかけとなった。
「エキサイトは3期連続の営業赤字。コンサルティングに入るだけでは不十分だと考え、みずほ銀行に『買収するとしたら資金を供給してくれますか?』と相談したところ、思いのほか前向きに検討してくれた。伊藤忠の財務部時代から第一勧業銀行(現みずほ銀行)と関係を築いてきたことが生きた」
クロステックはユナイテッド、DGインキュベーション、みずほキャピタル系などのベンチャーキャピタル(VC)から総額18億円の出資を受けるほか、みずほ銀行が約40億円を融資する。
10月24日を期限にエキサイトのTOB(株式公開買い付け)を始めており、全株の取得を目指す。買収額は最大で55億円。伊藤忠と第2位株主のスカパーJSATで計6割弱の株式を保有しており、両社はTOBに賛同。TOB完了後は上場が廃止される。
エキサイトは1997年設立。ポータルサイトでヤフーや米グーグルに敗れたが、友達探しサービス「エキサイトフレンズ」で収益を上げて2004年に上場した。一方のクロステックの社員数は5人ほどで、具体的な事業は始まっていない。
「エキサイトは占いサービスやブロードバンドなど事業の中身を入れ替えて生き延びてきた。メディア事業は独自記事を増やしたり、広告営業に力を入れたりする。他の事業は広告費と将来の収益をみながら投資する。四半期決算で思い切った投資がしにくかったが、非上場になれば機動的に判断できる」
「連結で約250人の従業員を抱え、豊富な人的資源があるが、極秘で買収を進めていたので従業員と話ができていない。VCの視点では優秀なエンジニアやデザイナーは新規事業を生む資産。既存事業のリソースを調整して新規事業に人を振り向ける」
西條氏はサイバーエージェントの子会社やWiLなどVCの経営者として未上場のスタートアップに投資してきたが、今回は上場企業を買収する。
「2000年代から『上場ゴール』という言葉があった。上場はしたが、資金を調達することもなければ事業を変えることもない会社を表す。日本のIT(情報技術)業界では時価総額が数十億円規模の上場会社がたくさんあり、再編が必要だと感じていた」
「例えばソーシャルゲームの会社は勢いを失い、時価総額が低迷している。一方、据え置き型ゲーム機ではスクウェアとエニックス、コーエーとテクモなど、統合が進んでいる。ソーシャルゲームも再編で経営資源を集中すれば世界で戦えるようになる」
上場するIT企業の再編が進まない背景には、経営者と投資家のそれぞれに事情があると考えている。
「日本は創業者の持ち株比率が高いまま上場することが多い。会社に自分の居場所を持っている創業者は自分の株を譲渡してまで再編しようとしない」
「上場企業を対象としたファンドは主に外食や消費財などキャッシュフロー(現金収支)が見えやすい会社に投資し、リストラをして利益を得る手法が主流だ。IT業界は変化が激しく、事業を整理しつつも新規事業をつくる必要があり、金融系は手が出しにくい」
18年1月にはVCのXTechベンチャーズも設立し、社長を兼ねている。上場・非上場に関係なく業界再編を進めたいという。
「今後は200億~300億円規模のファンドもつくりたい。上場企業と違って手元に現金がないため、資金力だけでは勝負はできない。商社やネット企業では商売を理解し、VCではリスクを見ていた。45歳でやっと両方が使える状態になった。外からは見えにくい経営の面倒くさいところをやる」
(鈴木健二朗)
[日経産業新聞 2018年9月14日付]