インド通貨が最安値圏 原油高も重荷、高まる政権批判
【ムンバイ=早川麗、ニューデリー=黒沼勇史】インド通貨ルピーの対ドル相場が最安値圏に落ち込み、同国の経済や政治への影響が大きくなり始めた。原油価格も国際市場で一時より高い水準で推移。インドは石油の純輸入国で、通貨安はエネルギー価格などを押し上げる。コスト高で航空各社の業績は急速に悪化し、自動車各社は相次ぎ値上げ。2019年5月までにある総選挙をにらみ、野党はモディ首相の政権を批判するデモを呼びかけ始めた。
インドの実質成長率は4~6月期、前年同期比8.2%に加速した。だが、通貨安が続けば先行きは不透明になる。
ルピー相場は12日、一時は1ドル=72.9ルピーに下落。前日につけた過去最安値を更新した。ルピーは18年に入り米国の利上げなどを背景に対ドルで下落傾向を強めている。
ルピー安で貿易収支が悪化し、4~6月期の経常収支も赤字額は158億ドル(約1兆7500億円)に増えた。経常赤字は国内総生産(GDP)比で1~3月期の1.9%から2.4%に拡大した。国際収支の悪化がルピー安に拍車をかける。
自動車大手は原材料費の上昇などを理由に8月、販売価格を引き上げた。最大手マルチ・スズキの乗用車の店頭価格は首都ニューデリーで最大6100ルピー(約9300円)上がった。1%程度の値上げになる。地場大手のタタ自動車やマヒンドラ・アンド・マヒンドラも約2%引き上げた。
インドの乗用車の販売台数は年度が始まる4月から8月までの累計で前年同期比10%増と好調だが、今後は値上げの影響が出る可能性がある。物価上昇を抑えたいインド準備銀行(中央銀行)は6~8月に政策金利を0.5%引き上げ、年6.5%に改めた。通貨防衛の姿勢をみせる。自動車ローン金利が上昇すれば販売には打撃だ。
原油高や通貨安の影響が直撃したのが航空産業だ。国内民間最大手インディゴは18年4~6月期に純利益が9割減少。同2位のジェット・エアウェイズ、同大手のスパイスジェットは赤字になった。インドの航空市場は47カ月連続で国内旅客数が10%以上増加しているが、競争が激しく運賃を上げにくい。
インド統計局によると消費者物価指数(CPI)の上昇率は6月、前年同月比で5%に迫った。インド準備銀行のパテル総裁は「4%前後の中期のインフレ目標から離れつつある」と警戒。7月は4%台前半に下落したが、再び上昇に転じる可能性はある。
燃料高は庶民の生活に影響する。政府系の石油会社インディアン・オイルによると、ムンバイでのガソリン価格は10日まで9日連続で、ディーゼル燃料価格は14日連続で過去最高値を更新した。
最大野党、国民会議派をはじめとする野党連合は、市民に政府糾弾のデモを呼びかけ始めた。主要都市ムンバイでは最近、デモ隊が列車の走行を妨害し、野党政治家ら約100人が拘束された。
モディ氏の与党インド人民党(BJP)は14年の前回総選挙で下院の単独過半数を得て政権を担当。だがその後はヒンズー教色の強さや新税導入などで党勢がやや陰り、足元の情勢では次回の総選挙で単独過半数を維持できるかどうか微妙だ。
インドではインフレの度合いが有権者の投票行動に大きく影響する。野党側はこの機にBJPへの攻撃を強めるが、物価安定の具体的な政策を示しているわけではない。
BJPは先週まで「通貨安は国内要因でなく(トルコ危機など)世界の動きが原因だ」(ジャイトリー財務相)などと指摘していた。だが、インド政府は10日、ガソリン税やディーゼル燃料税を引き下げた。BJPの姿勢に変化がみられる。
政府が減税で対応すれば、財政収支が一段と悪化しかねない。モディ政権は例年、財政赤字のGDP比を前年比で縮小あるいは同程度で抑えてきたが、18年度は拡大に転じるリスクがある。
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