竹下派、幻の2位・3位連合 自民総裁選 次にらむ
ルポ迫真
総裁選への対応は揺れた。「一本化したい思いを強く持ってきたが、それはできない」。党総務会長で竹下派を率いる竹下亘(71)は、8月9日に長野市で開いた派閥総会で述べた。基本的に衆院は首相の安倍晋三(63)、参院は元幹事長の石破茂(61)を支持すると表明した。
4月に額賀福志郎(74)から代替わりし、派閥会長に就いた竹下は「ここ十数年の総裁選で衆参の対応がずれた派閥を1つにして、また総裁候補を出せる派閥にしたい」と考えてきた。派閥が結束して行動し、再び党内で存在感を向上させたいとの思いがあった。
竹下は「支持表明はギリギリになるかもしれない」と周囲に話してきた。しかし7月24日に岸田文雄(61)が不出馬を表明すると状況は一変。「テンポが少し速まった」と派内の調整を急いだ。衆院側には安倍を支持するベテランが多く参院側トップの吉田博美(69)も安倍と懇意だ。派をまとめるには安倍支持が得策だった。
竹下登の秘書を経て参院議員となり「参院のドン」と称された青木幹雄(84)は「来年の参院選は『安倍1強』では勝てない」と危惧した。総裁選に複数候補が出るのが望ましいと考えた。岸田、石破の2位、3位連合で安倍を揺さぶる戦術を描いていたとの見方がもっぱらだ。
だが岸田は出馬を断念。青木は7月25日、竹下、吉田と会い「石破を支持してほしい」と促した。26年前の経世会分裂で、小沢一郎(76)は中堅・若手を中心に優勢だった衆院を参院で逆転されて主導権を奪われた。分裂した小渕派は参院の人数が衆院を上回った。それ以来、この派閥は参院の力が強い。竹下は全体を石破支持でまとめようとした。
8月2日、衆院の所属議員を集めた意見聴取会。参院側が石破支持に回るとの噂を聞きつけた衆院議員から安倍支持の声が噴出した。竹下と吉田は7日、派閥事務所で2人きりで面会し、考えを擦り合わせた。竹下は「次はうちから(総裁候補を)出そうということを大前提に一本化と話してきた」と打ち明けた。吉田は「全員で貧乏くじを引く必要はない」と説得した。事実上の自主投票が決まった。
「自分は『俺についてこい』というタイプではない。みんなの意見を聞く調整型の人間だ」。竹下の思いはかなわず、派閥がまとまらないまま総裁選が始まった。(敬称略)