11億円調達のトランビ、次の目標は早期の上場
中小企業の事業承継やM&A(合併・買収)情報サイトを運営するトランビ(東京・港)は、SBIインベストメントなどから総額11億円を調達した。サイトの機能向上やM&Aによる事業承継実務を担う人材の育成などにあてる。同社として初の資金調達。自らも町工場の社長の高橋聡社長に今後の展望を聞いた。
――スタートアップの初回の資金調達としては大きい規模です。
「当初はもう少し小規模の予定だった。M&A仲介会社の方と話すなかで、上場による信用力確保が中小経営者が相手のサービスでは急務と感じた。複数回の資金調達を経て上場というステップを踏むよりも、一度の調達で一気に上場につなげたいと考えた」
「2025年までに70歳を迎える中小経営者は245万人に上り、その約半数の127万社で後継者未定という大廃業時代を迎える。状況は差し迫っている。早期に上場し信用力を得てトランビの活用を促したい」
――増資の引受先としてM&A仲介会社が7社入っています。
「トランビには日本の中小の約9割を占める年商数億円規模の小規模事業者による譲渡案件が多く掲載されている。小規模事業者同士のM&Aは仲介手数料が約2千万円未満と少額でこれまで仲介会社が手掛けてこなかった分野。買い手企業探しなど工数がかかる割に手数料が少ないためだ」
「一方でトランビに事業譲渡案件を掲載すると、平均10社の買い手候補情報が寄せられる。仲介会社としてはマッチングにかかる工数が省略できる。小規模M&A市場活性化はトランビに任せるという役割分担ができることになり、そこに大きな期待を寄せてもらった」
――11億円の使途は。
「サイト機能強化だ。サイト上で売り手と買い手が決算書や契約書をやりとりできるようにしたり、買い手希望者にお薦めの譲渡案件の提示機能などを追加する。ほかに信用金庫など地方の金融機関担当者に事業承継M&Aを身近に感じてもらうためのセミナーやeラーニングなどのコンテンツ作成を進めたい。小規模事業者のM&Aが進まない背景に事務作業のできる専門家が少ないことがある。地方の金融機関の担当者が担えるようにすることで解消したい」
――事業目標は。
「現在約60の金融機関やM&A仲介会社と提携しているが提携先を増やし、早期に今の約100倍となる年間1万件の成約を目指したい。それでも事業承継に悩む中小企業の数に比べたら少ない。私自身、親から町工場を継いだが、今も身近で技術力のある会社が廃業する例が後を絶たない。会社は売れるもの、買って挑戦できるもの、という意識を世の中に醸成したい。売却は失敗ではなく成功の証しなのだから」
■ ■ 記者の目 ■ ■
小規模事業者の事業承継の選択肢の一つとしてM&A(合併・買収)を提案するトランビだが、最近は様々な目的の利用が広がっている。例えば大企業を辞めて事業を始めたいという個人が興味ある事業を探すために登録したり、人手不足に悩む中小企業が技術者を抱える企業を買収したり、といった使い方だ。スタートアップ企業による自社の売却や「ゆるキャラ」の売却、という事例も出てきた。
2025年から30年にかけてピークを迎えるとみられる中小の事業承継問題だが、トランビのサービスの可能性はその先にも広がる。スタートアップエコシステム(生態系)の出口戦略の一つとしての役割だ。個人事業主を含めビジネスそのものの売り買いが自由にできる土壌が整えば、起業自体へのハードルは低くなる。
起業家比率が日本の3倍という米国ではトランビのようなサービスが一般的で、全企業数に占めるM&A件数の比率も日本の3倍という。開業率10%台と現状の倍増を目指す日本。それを支える裏方としての役割にも期待がかかる。 (京塚環)
[日経産業新聞 2018年9月11日付]