露の世の醍醐味 神野紗希
「こんど、おっと、いない」
朝日に目覚めた2歳の息子がつぶやいた。夫を失った女性の魂が乗り移ったかと焦ったが、どうやら「おっと、いない」ではなく「音、ない」。昨夜聞こえていた虫の声が、今朝は聞こえない、と言いたかったらしい。
「こんど」とは、これまで繰り返されてきた事柄のうち、今この1回を指す言葉だ。過去を覚えているからこそ「こんど」が分かる。この子も成長したのだなあ。ほろり。
というのも、生後...
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