学研が介護大手買収、認知症「5人に1人」時代へ布石
学研ホールディングス(HD)は5日、介護大手のメディカル・ケア・サービス(MCS、さいたま市)買収に伴う記者会見を開いた。買収総額は約90億円。学研は教育と医療福祉を両輪に0歳児から100歳超の高齢者までカバーする「地域包括ケア」の実現を掲げる。5人に1人が認知症を患う時代の到来を見据え、メディカル社のノウハウに白羽の矢を立てた。
「(今回の買収で)医療福祉が教育事業と並ぶ2大エンジンになる。世界一を目指して志を持って攻めていきたい」。都内で記者会見した学研の宮原博昭社長は宣言した。認知症患者は近く700万人前後に達するとみられ、事業モデルの確立競争も激しくなってきた。
買収の背中を押したのは、メディカル社が持つ認知症ケアのノウハウ。国内で269棟の認知症グループホームを持ち、居室数では5156室で国内首位に立つ。一方で学研は比較的健康な高齢者が対象のサービス付き高齢者住宅(サ高住)がメイン。認知症ケアを目的としたグループホームが手薄で「重度の認知症患者の対応は弱点だった」(小早川仁取締役)。
今回の買収でサ高住やグループホームなど、高齢者住宅で学研の居室数は現在(5901室)の2倍強の1万1883室に拡大。SOMPOケア(2万5487室)、ベネッセスタイルケア(1万7061室)、ニチイ学館(1万3867室)に次ぐ業界4位(現在は11位)に浮上する。連結売上高に占める介護など医療福祉サービス事業の割合は足元で25%だが、教育事業の比率にさらに迫る見通しだ。
厚生労働省によると、2012年に462万人だった65歳以上の認知症患者数は25年に675万~730万人に拡大する見通しだ。有病率は同年に20.6%まで上昇する可能性があり、高齢者の5人に1人が認知症を患う未来はすぐそこまで来ている。ニチイ学館など大手も認知症患者向けの対応を急いでおり、上位に追いつくのは一足飛びにはいかない。
買収に成長が見込まれる企業の競争力強化や地域活性化を目的とした日本政策投資銀行の「特定投資業務」の枠組みを使い、政投銀と共同でメディカル社の親会社である三光ソフランホールディングス(東京・中央)が持つ全株式を取得する。譲渡後の出資比率は学研が61.8%、政投銀が38.2%。メディカル社は学研の連結子会社になる。
メディカル社にとっても介護現場の人手不足は深刻化しており、採用活動で「学研」ブランドを活用できるのは人材確保の点で有利に働く。両社は人材育成プログラムを共有して人材交流を進め、学研のサ高住とメディカル社のグループホームの複合開発にも乗り出す。開発用地の情報は相互に共有し、拠点展開も有利に進める。ブランドは当面併存するが「複合型では新ブランドも視野に入れる」(小早川氏)。
学研とメディカル社は共同で認知症の予防から緩和までに対応するケアシステムを確立し、アジア各地での展開も視野に入れている。メディカル社は現在、中国とマレーシアで3カ所の有料老人ホームを展開する。主な進出先の中国では健康な高齢者から様々な症状の認知症患者向けのサービスを展開する方針。「今後高齢化が進むタイやインドネシア、ベトナムへの進出も検討したい」(メディカル社の山本教雄社長)と意欲を示した。(加藤宏一)
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