森保ジャパンに期待する「チーム一丸」の戦い
サッカージャーナリスト 大住良之
森保一監督が率いるサッカー日本代表は9月11日、コスタリカ代表との国際親善試合(大阪府吹田市)で2022年ワールドカップへの第一歩を記すことになった。7日に予定していたチリ戦(札幌市)が6日未明に北海道を襲った大地震の影響で中止になったためだ。中東のカタールで開催される22年大会は11月21日開幕の予定。同監督には50カ月間の準備期間が与えられていることになる。もちろん、アジア予選を戦いながらではあるが……。
U-21(21歳以下)日本代表の監督も兼ね、1日の決勝までインドネシアで戦うことになった森保監督。最初のメンバー発表は8月30日に西ジャワ州ボゴールで行う異例の対応だった。
「ワールドカップに出場していた選手で、基本的に海外でプレーしている選手の招集は、今回は見送った」(森保監督)
■選手発掘も強いチームづくりも
ロシア大会の日本代表にはJリーグから8人が加わっていたが、レギュラーとしてプレーしたのはDF昌子源(鹿島、25)の一人。その昌子は7月下旬に左足を痛めてまだ復帰していない。残る7人のうちGK中村航輔(柏、23)も7月の脳振盪(しんとう)の影響で試合から離れている。
この2人以外の6人はワールドカップ後に欧州に移籍したDF植田直通(鹿島→セルクル・ブルージュ、23)とDF遠藤航(浦和→シントトロイデン、25)を含め全員選出された。しかしその後、MF山口蛍(C大阪、27)とMF大島僚太(川崎、25)が負傷して代表を辞退。「ロシア経験者」は植田と遠藤のほか、GK東口順昭(G大阪、32)とDF槙野智章(浦和、31)の計4人だけとなった。
ただし、この形は11日のコスタリカ戦(大阪市)を含め9月の2試合だけになるかもしれない。森保監督は22年までの日本代表の中心となると思われるDF吉田麻也(サウサンプトン、30)、MF原口元気(ハノーファー、27)、柴崎岳(ヘタフェ、26)ら経験豊富な選手たちを10月の2試合(新潟市、さいたま市)、あるいは11月の2試合(大分市、愛知県豊田市)で招集する心づもりでいるからだ。
今年いっぱいは国内での親善試合6試合で選手選考をしつつチームを固めればよいが、来年1月にはアジアカップ(アラブ首長国連邦)がある。さらに19年9月にはワールドカップ予選も始まる。経験のある選手を加えながらも4年後を見据えた新しい選手の発掘は続くだろうが、森保監督は早急に「強いチーム」をつくることも求められている。
チリ戦、コスタリカ戦の2試合のために選出された23人の選手のなかで注目したいのがDF冨安健洋(シントトロイデン、19)、MF伊藤達哉(ハンブルガーSV、21)、MF堂安律(フローニンゲン、20)の若手3人。本来なら20年東京五輪につながる「U-21日本代表」としてアジア大会に出場すべき選手だったが、アジア大会では欧州のクラブに放出を義務付けられず、A代表としての選出となった。
■3人、今後の代表の中心に成長も
3人とも所属クラブでレギュラーとして活躍しており、技術やフィジカルだけでなくメンタル面でも非常に強い。五輪だけでなく、今後の日本代表の中心に成長する可能性は十分ある。
冨安は188センチの長身センターバック。高さだけでなく、足元の技術も高くパスもうまい。今回招集された23人のなかでは最年少だが、近い将来に日本の守備の中心になるかもしれない。
伊藤は柏のユースからJリーグを経ずドイツの名門ハンブルガーSVでプロ契約した選手。163センチと非常に小柄だが、切れ味鋭いドリブル突破を武器としている。
そして堂安はG大阪のジュニアユース時代からその才能の高さを認められていた逸材。左利きで高いテクニックとシュート力を持っている。
だが、今回のメンバーのなかで私が最も期待するのは、MF中島翔哉(ポルティモネンセ、24)、MF南野拓実(ザルツブルク、23)、FW浅野拓磨(ハノーファー、23)の「リオデジャネイロ五輪組」だ。3人ともバヒド・ハリルホジッチ監督時代に日本代表にデビューし、浅野はワールドカップ出場を決めた昨年8月のオーストラリア戦で先制点を取るなど一時は中心選手として活躍したが、3人ともロシアの土を踏むことはできなかった。
切れ味鋭いプレーで最前線のゲームメーカーといっていい南野、小柄ながら高い得点力を持つ中島、そしてスピード突破を誇る浅野。22年に20代後半を迎えるこの3人は、ベルギーのヘントからドイツのニュルンベルクに移籍直後のため今回は招集を見送られたFW久保裕也(24)とともに、これからの日本代表の攻撃を中心選手として担わなければならない存在といっていい。
10年から今年のワールドカップまでこうした役割を担ってきたのが、MF本田圭佑(メルボルン、32)、MF香川真司(ドルトムント、29)、FW岡崎慎司(レスター、32)らだった。南野ら4人は本田たちが抱き続けてきたプレー面だけでなく精神面での「責任感」も、自ら引き受ける覚悟を持って「森保ジャパン」にかかわっていかなければならない。
■ベテラン青山招集の狙いは?
今回の23人のうちでもう一人だけ注目の選手を挙げさせてほしい。MFの青山敏弘(広島、32)だ。現在、Jリーグで首位を快走する広島にあって絶好調のプレーを続けており、実力的にはJリーグでトップクラスのボランチといっていい。ハリルホジッチ元監督も大きな信頼を寄せていたが、個人的な事情で15年から代表には参加していなかった。西野朗監督はワールドカップに向けた準備試合のガーナ戦(5月)に選出したが、直前の故障で辞退を余儀なくされた。
22年を36歳で迎える青山を森保監督がチームに加えたのは、チームの「手本」にするために違いない。森保監督の下で広島を3回のJリーグ優勝に導き、攻守両面で中心選手となった。今季もそのレベルを落としていない青山のプレーを、森保監督は目指すサッカーの当面の「基準」とする考えだろう。攻守の切り替え時の青山の判断と動きの速さを日本代表が身につければ、世界を相手に戦う大きな武器になる。
そして何より、森保監督が選手たちに求めるのは、全員が例外なく「チームのために」プレーすることだ。
広島時代にも、森保監督はチームで戦うことを徹底的に求めた。だからこそ、毎年のように主力流出の憂き目にあいながら、その都度無名に近い選手を引き上げて4年間で3回優勝、その間にクラブワールドカップ3位という成績を残せた。そしてコーチとして参加したワールドカップ・ロシア大会でも「一丸になったチームの強さ」をまざまざと見た。
森保監督率いる日本代表の22年ワールドカップへの挑戦が始まる。大阪などに甚大な被害をもたらした台風21号、そして北海道の大地震と大きな自然災害が連続した中で戦う日本代表は、いつも以上の「責任」を感じてほしいと思う。チーム一丸を貫いて、一歩ずつ成長しながら新しい時代を築くことを期待したい。