起業の街 熱い志から マネーフォワード社長 辻庸介さん(もっと関西)
私のかんさい
■家計簿アプリ大手、マネーフォワードの辻庸介社長兼最高経営責任者(CEO、42)は大阪・天王寺で育った。学生時代はテニスに熱中し、学習塾もつくった。幼い頃から会社経営の話を祖父の佐伯旭氏(シャープ元社長)から聞いていたが、まさか自分が経営者になるとは夢にも思わなかった。
当時、天王寺駅周辺では路上で使い古された片足だけの靴が100円で売られていたり、1泊1000円の宿があったりした。私は新興国のような雑多な雰囲気にわくわくする。大阪は人と人の距離が近く、みんな世話焼きなところが好きだ。
大学時代に大阪・難波に進学塾を共同で開いた。ビラを作って宣伝し、参考書を片手にテキストを作り、自ら教壇に立った。ビジネスをゼロから始める面白さを経験した。
月に1度、親戚が集まる時に大人に交じって祖父の話を聞くのが楽しみだった。中でも新興国に工場を建てる話をしている時の祖父の顔はうれしそうだった。まだ小学生だったが、仕事は雇用を生むと強く意識した。厳しい面も垣間見た。正月には集まりの最初は顔を出すが、途中で自室に引っ込み、会社での新年のあいさつを考えていた。いつも本や新聞を読んで勉強していて、大変そうに見えたが、経営者のあるべき姿を示してくれた。
■大学卒業後はソニーに就職し、経理部門でキャリアを歩み始めた。社内公募を使ってソニーが出資するマネックス証券に出向し、松本大社長に出会った。
ソニーではネット事業をやりたかったが、配属は希望していない経理。ビジネスを作る側の仕事がやりたくて、葛藤をしていた時にマネックス証券出向の社内公募を見つけた。
松本社長は明るく、厳しかった。ある時左の肩ばかり凝るなあと思っていたら、松本社長の席がある方だった。突然「おい、辻」と言われるのでいつも緊張していたせいだろう。手をあげれば色々仕事をやらせてくれた。失敗をたくさんしたが、一番自分が伸びた時期だった。
■2012年マネーフォワードを創業。自動家計簿・資産管理サービスを始める。17年にフィンテックを扱う国内のスタートアップとして初めて東証マザーズ市場に上場した。
正直いうと、創業当初の記憶がない。毎日何か起こるため、それに対応するのに必死でメモリーに残らなかった。一番印象に残っているのがクラウド会計サービスを公開した時のビールのうまさだ。確定申告に間に合わせるため、東京・恵比寿のワンルームに籠もって開発した。夜中に公開して翌朝に問題がないことを確認すると、昼からビアガーデンに飲みにいった。
■楽天の三木谷浩史会長兼社長やソースネクストの松田憲幸社長など関西出身の起業家は多い。一方で関西には有力なスタートアップが少ない現状にもどかしさを感じている。
関西人は商売がうまいが、私も含めて起業となると情報と人が多い東京でしてしまう。京都、大阪、神戸の有力3大学があり、新しいビジネスのタネはたくさんある一方、起業家の絶対数が足りない。熱い思いを持った人がいないと、お金を出す人、応援する人はついてこない。集めるには大阪ならではのビジョンが必要だ。
福岡はそこがうまい。ミニ東京を作ってもしょうがない。お笑いや食い倒れはどうか。日本一のエンタメの街というコンセプトは良いかもしれない。そうなるとIR(統合型リゾート)は目玉になる。
京都にもヒントがある。任天堂や日本電産などグローバル企業が京都に本社を残すのは愛着だけではなく、合理的な理由があるはずだ。「そうだ京都、行こう。」という有名なキャッチコピーがあるが、関西で起業家や投資家を集めるコピーを作ってはどうか。
(聞き手は大阪経済部 阿曽村雄太)